投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

飃(つむじ)の啼く……の最初へ 飃(つむじ)の啼く…… 88 飃(つむじ)の啼く…… 90 飃(つむじ)の啼く……の最後へ

飃の啼く…第9章-10

「貴様の名など知ったことか!よくもぬけぬけと…」

獄は嘲笑した。青白い顔が歪む。

「わざわざ逢いに来たわけではない。そうしたいのは山々だが、何しろ忙しいのでな。この監獄を管理するのは。さて…」

獄が部屋の中をぐるりと回りながら、天井に吊り下げてある奇妙な道具に火を入れていく。

鎖はびくともしない。鎖を切るのを諦めて、破魔の呪言を唱える。

「無駄だ。君が何をしようが、この私に破魔術は通じない…魔物と思いたくとも、私は人間なのだからな。中国への長旅も徒労だったというわけだ。ん?」

「黙…れ!」

香炉からは濃厚な香りが漂い始め、部屋中に充満する。

「いい香りだろう?もっとも君の鼻は人間より優れているから、どう感じるか知らんがね。」

怒りではっきりと目覚めていた飃の意識が、徐々に朧げになる…ここで意識を失ってはいけない。仇が居る。仇がいるのだ!

―父と母と、弟と、自分自身の。

飃は、自分の足や肩に血が出るほど噛み付いて、意識をとどまらせようとする。

「さあ…」

獄は、飃の耳をつかんで、囁いてきた。

「二十年前の続きをしようじゃないか…」



++++++++++++



湿った靴音が、水路に響く。

風炎は迷うことなく先を急いでいる。でも、急ぎ足りない。

走ったっていいくらいだと、私は思った。でも、そんなことで体力を消耗できない。代わりに情報を仕入れることにした。この風炎は、かつては澱みの集まりの中でも、かなり首領…黷だっけ…に近いところに居たという。

「その牢獄って言うのは、どんなところなの?」

「忌まわしいところだ。」

風炎が言う。

「時折狗族や妖怪のたぐいを捕まえてきては、発生したばかりの澱みどもに、そいつの生気を吸わせる。まるで蛭(ひる)かゴキブリがたかっているのを見るようなものだ。たまに重要な役目を持った狗族をつれてくると…」

私は耳をふさぎたくなった。でも聞いた。それが必要なことだから。

「まず拷問する。そして憎悪の念や絶望を強制的に抱かせる。そしてあんまり弱りきって生気がなくなる前に、澱みに生気と負の感情を吸わせるんだ。黷が自分の“子供”たちを育てる…いわば澱みのゆりかごだな。」

「…おぞましい…」

思わず口を付いて出る。

「お前らが対峙しているのは、そういう相手だってことさ。」

さめた口調で、風炎が言う。

「それに、知っているとは思うが、元は、あいつらも人間から生まれたんだ。つまるところ、一番邪悪なのは人間さ。それに気づいていないだけだ。」


飃(つむじ)の啼く……の最初へ 飃(つむじ)の啼く…… 88 飃(つむじ)の啼く…… 90 飃(つむじ)の啼く……の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前