『繋がりゆく想い……』-3
「俺しかいねえから、遠慮しないで入ってくれ。」
さして理由なんか無かったけれど、俺はその女を自分の家に連れて来てしまった。敢えて言うならアフターケアみたいなモノだったのだろう。気まぐれとはいえ、助けちまったんだから……
「そこが風呂場だ。沸いてるから入ってきな。んで、そこが母親の部屋だから適当に服でも下着でも見繕って着てくれ。」
「い、いいの?勝手に着て……」
派手な見た目と違って意外にしおらしいコト言う……
「それを着る奴はもういないから気にすんな。」
「どういうコト?」
「親父もお袋も死んじまった……。そういうコトさ……」
吐き捨てる様な俺の言葉に女は目を見開いていた。
「いいから、とっとと入って来いって言ってるだろ?話しは後だ。」
「う、うん……」
躊躇いがちに女は頷き、浴室に姿を消す。気怠い身体をソファーに沈め、テーブルに足を投げ出して俺は女が出て来るまで煙草を燻らせていた。
「お風呂、ありがと…」
小一時間後、風呂から出て来た女がそう言うと俺は冷蔵庫の方を顎でしゃくる。
「喉、渇いてるんだろ?ジュースでもビールでも勝手に飲んでくれ……」
その言葉に頷いて女は冷蔵庫を開けた。と途端に悲鳴の様な声を上げる。
「な、何コレ!!飲み物しか入ってないじゃん!!あんた、ご飯とかどうしてんの?」
「お前には関係ないだろ?」
「そう…だね。ゴメン」
女は自分の分と頼みもしない俺の分のビールを持って反対側のソファーに座った。
「智也ね……二股かけてたの。あたいのコト好きだって言ってた癖に……」
二本目のビールを空にした頃から、女はぽつりぽつりと話し始める。
「あたい、信じてたのに……」
「軽はずみに好きだなんて言う男にろくな奴はいねぇーよ。高い代償かもしれないが、いい勉強になったろ?そう考えな。」
「あんた優しいんだね。口は悪いけど……。ありがと……」
「よせよ!ただの気まぐれさ……礼なんかいらないんだ。」
そう……ただの気まぐれなんだ。残り僅かな時間を騒がしくしたくなかった……それだけなんだから。
「泊まるなら好きな部屋を使っていい。ただ、親に連絡ぐらい入れとけよ?」
「親なんかいないよ!あんな親なんか……あ!ゴメン、あたい……」
はっ!急に素直になりやがって……
「先に寝るぜ。電話は勝手に使っていい。」
俺はリビングに女を残したまま、自分の部屋に入った。ベッドに潜り、何をするでもなく天井を見詰める俺。いつ以来だろ?この家に自分以外の誰かがいるのは……
自分の部屋以外に明かりが点いているのは……
つかの間まどろんでいた俺は、騒がしさに目を覚ました。部屋を出てリビングに向かうと微かな泣き声が聞こえて来る。そっと覗き込むと薄暗いリビングのテーブルに両肘を付いて女は啜り泣いていた。
「どうした?」
俺が声を掛けると女は慌てた様に頬を拭い、照れ臭そうに俺を見る。
「あんたに言われた通り電話したんだけど、やっぱり喧嘩になっちゃった。急に素直になっても信じちゃもらえないんだね……帰って…来るな…ってさ……」
何だかわからないが、コイツなりに複雑な事情があるみたいだな……
「もう寝ろよ。な?」
それ以外、掛ける言葉が見つからなくて俺は静かに背を向ける。すると……
「待って……独りにしないで……」
後ろから女の声が聞こえた。
「あたいの我儘だってわかってる。だけど、今は独りになるのが嫌なんだ……」
考えてみれば、一時は死のうとまで思ってた訳なんだから情緒不安定になってても当たり前だよな。成程、独りにしておくのはマズイかもしれない……俺は小さく肩を竦めると
「来いよ。」
一言だけ言った。