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『繋がりゆく想い……』
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『繋がりゆく想い……』-4

その日、その時だけのつもりで俺はベッドの隣りを空けてやった筈なのに、あれから三日が過ぎたというのに相変わらず女は俺のところにいる。

「お前さ……いつまでいるつもりだ?」
「だって居心地いいんだもん。やっぱ、出てかないとダメ?」

あの日、親に帰って来るなって言われたコイツが何となく可哀相で、つい居座る事を了承してしまった。そのままコイツは居着き、そして今夜も俺の隣りで布団に潜っている。

「どうでもいいけど、なんでそう引っ付いて来るんだ?いい加減、他の部屋で寝ろよ。」
「あたいって、そんなに魅力ない?」
「はぁ?何言ってんだお前……」
「だって、もう三日もこうしてるのに、あんた手も出さないじゃん。」

次の瞬間、俺は女の胸倉を掴んで引きずり上げると、自分でも驚く程のドスの効いた声を出した。

「テメェ……俺を舐めてんのか?俺が身体目当てで、お前を置いていたって思ってんのかよ?そんな風に思ってんなら今すぐ出ていけ!!」

突き放した勢いで女はベッドから転げ落ち、床で激しく咳込んでいた。

「今までお前がどんな男と付き合ってきたか知らないし、興味もない。だけど世の中の男がみんなそんな考えの奴ばっかだと思うなよ!!」

ゲホゲホと咳込み、女はよろめきながら立ち上がると首を摩りながら、怯えた目で俺を見ていた。

「どう…して、そんなに…ゲホンッ…怒るんだよ……あたい、お礼がしたかった…だけなのに……」
「俺がいつお前に見返りを求めた?余計な事……」
「するなって?あたいは恵んでもらうなんて嫌だ!憐れんでなんか欲しくない!!」

言葉じりを奪う様にして、初めて女は俺に真っ向から言い返して来た。

「あんたに感謝してるんだよマジで……。だから、お礼がしたかったんだ。けど、あんたのコト聞くといつも関係ないって答えるし、あたい馬鹿だからこんなコトしか考えらんなくて……。あたいが嫌いなら、中途半端に優しくすんなよ!!どうしていいかわかんないよ……」

そうか……どうやら俺は考え違いをしていたらしい。コイツが見た目以上に純粋(ピュア)なんだって事にようやく気付いた。やり方は間違ってるけれど、礼には礼を……プライドを持ってるんだって事に……

女をそっと抱え上げると俺はベッドに座らせた。

「乱暴にして悪かったよ。俺さ、祐樹って言うんだ。お前の名前は?」
「あたい、智子(ともこ)。」

智子だけに礼は尽くすってか……よく出来た洒落だな。

「お前にピッタリのいい名前だな。ごめん智子、お前のコト傷つけた。だけど、お礼なんていいんだ。お前が元気になってくれたなら、それで充分なんだから。」

そう、それだけでいい。
未練も想いも残してはいけない。
まして、人との繋がりなんて……

「言ってる意味がわかんないよ祐樹……」


ゴフッ!ゴフッ!

会話の途中、突然俺は激しく咳込んだ。込み上げる様に咳を繰り返し、そして……

ビシャッ!!

口を押さえていた手に赤い液体が吐き出された。

そうか、いよいよカウントダウンが始まっちまったのか……

真っ赤に染まった手の平を見つめながら、俺は思ったよりも冷静な自分に驚いていた。

「ゆ、祐樹っ!!大変!医者呼ばなきゃ!じゃなくて消防車!!?」
「救急車だろ?智子。」
「あ!そうよ!!110番しなくちゃ!!」
「それじゃ警察が来ちゃうだろ?とにかく落ち着けって……」
「だ、だって祐樹、血がドバーッ!!って……」
「大丈夫だから落ち着けって……な?」

本人よりもうろたえている智子が妙に滑稽で、思わず吹き出しそうになるのを俺は堪えた。もっとも、血を吐きながら笑っていたら、気が狂ったと思われ兼ねないけれど……

俺はタオルで手の平と口を拭って汚れた服を手早く着替える。気を鎮める様に大きく深呼吸していると、恐る恐る智子が尋ねてきた。

「祐樹、ホントに病院行かなくていいの?」
「ああ、大丈夫だ。なぁ智子……お前、明日には出てけ。そしてもう、ここには来るな。俺のコトは忘れろ……わかったな?」
「な、なんで急にそんなコト言うんだよ。嫌だよ、あたい……」
「理由なんかどうでもいい……俺が決めたんだ。もう寝ろ。」

それだけ言って、布団に潜ると俺は背を向ける。何度か智子が話し掛けてきても、俺は一切応えなかった。やがて諦めたのか智子は何も言わなくなる。そして次第に息苦しさも治まり、眠りに落ちた俺が次に目を覚ました時、ベッドの中に智子の姿は無かった。

「そうか……帰ったんだなアイツ……」

たった三日間の同居人……それだけのコトなのに何故か無性に切ない……

「ん?なんかコゲ臭いぞ……」

俺はベッドから起き上がり、リビングへ向かった。段々と臭いが強まっていく……


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