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Penetration
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Penetration-3

「それと…ドイツのノイッシュバンシュタイン城……」

「バン・シュタインか。えらくシブいところを知ってるね」

彼女が仁科の顔を見た。それは先ほどまでのうつ向いて見るのとは違い、真っ直ぐに見て口はわずかに開いていた。

「知ってるんですか?ノイッシュバンシュタイン城」

さっきまでのたどたどしい喋りも消えている。

「ああ、知っているとも」

「私、それを見た時、〈ああ…自分もこんなの建ててみたい〉って思ったんです」

かつて仁科が歩んで来た道だ。前出のサグラダ・ファミリアやノイッシュバンシュタイン城はもちろんの事、タイのタージ・マハル、清水寺、姫路城、平等院鳳凰堂など建築物に魅せられて建築会社に進んだのだ。
しかし、入社して2年。自分の意思とはうらはらにリ・ニューアル課で注文取りの日々。夢と現実のギャップに憂鬱になる日が続いていた。

仁科はいたたまれなくなった。かつての希望に輝いていた自分を見るようだった。
時計を見る。30分は経っただろうか。幹線道路の方を眺めると、店に入る前よりも、幾分流れているようだ。

「マスター、お勘定」

仁科はそう言うと、カウンターのとまり木を降りて入口奥にあるレジスターに向かった。

レジスターには彼女が現れた。

「400円です」

仁科は彼女にお金を渡しながら呟いた。

「立派な建築家を目指せよ」

おつりを渡す彼女の顔がパアッと華やいだ。

「ハイッ!ありがとうございます」

仁科は満足気に頷くと、カフェ・フォレストを後にし、幹線道路の流れに混じって行った。




自社ビルの10階ワン・フロアー。設計部のワン・セクションに仁科達リ・ニューアル課がある。朝、スーツの上着を脱いで作業服に着替えると、パソコンの電源を入れる。しばらくしてディスプレイに映し出される壁紙はサグラダ・ファミリア。仁科のお気に入りだ。

「仁科君」

マネージャーの沢田が呼び止める。

「何でしょうか?」

仁科はマネージャーのデスクに近寄ると、後ろ手に手を組んだ。

「〇〇病院の件、無くなったから」

「エッ、でもマネージャーが朝一で行って来いって…」

「先方さんが断ってきてな……その替わりと言っちゃあ何だが、〇〇市営住宅に行って欲しいんだ」

「はぁ…分かりました」

(いつもこれだ。土壇場になるとコロコロ変わる)

仁科は哀しくなった。営業した物件で、実際に本工事にこぎつけるのは5パーセントにも満たない。
ほとんどは見積もりを聞いた段階で引いてしまうか、ひどいのになると、建屋の劣化状態を知りたいがためにエサを投げてくる輩もいる。

仁科は無力感をたずさえながら、今日も営業へと出かけて行った。


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