恋におちるときU-1
一瞬の光に目を閉じる。
写し出されるのは、あなたが見ているもの。
胸が高鳴る…。
カッ…―カッ…―
廊下にヒールの音を響かせながら、MDウォークマンで音楽を聴く。
ウォークマンなんてアナクロかもしれないけど、私は音楽さえ聴ければそれでいい。
所詮、私は流行にのっていく気などさらさらないのだ。
三曲目が終わったとこで足を止め、ウォークマンを耳からはずしポーチの中へ入れる。
もちろん、ついでに鏡で化粧もチェックして。
「こんにちはー!」
「おう、ミィ」
ドアを開けると同時に発した挨拶に、穏やかな声が返ってきた。
「先輩一人?」
「おぉ」
初夏の窓辺にもたれ掛かるその人を、みんな"チカ"と呼ぶ。
一年前、憧れのキャンパスライフに胸を弾ませながらこの場所へ来た。
新入生歓迎会でバンドや模擬店で賑わう中、真っ白な廊下の壁に飾られた写真展に、私は足を止めた。
そして、チカ先輩のいるこのサークルへ入ったのだ。
「ミィ」
「何?」
「呼んでみただけ」
「え〜?!」
言っておくと、私の名前はミィじゃない。
私は自己紹介のとき、自分の名前は古くさくて嫌いだと言った。
「そんなことないよー」と、ありきたりな答えが返ってくる中、1人だけ違うことを言う人がいた。
『じゃぁ、ミィでいい?』
『え?』
『名前』
『………』
『ミィでいい?』
『別に…いいですけど』
『うん、決まり!』
それがチカ先輩と初めて交わした会話だった。