wish.the.onece.of-2
少女は立上がり、白猫を抱き抱えながら
「おはよう、トワ」
白猫を机の上に置くと看板を持った黒猫を抱き、
「…坊やだから…じゃないや。おはよう、ギレ…じゃないや。おはよう、リツ」
人形を抱き、挨拶をする姿は、恐らく日課なのだろう。
とても自然な姿で、カーテンの隙間から少しだけ差し込む朝日にとても映える。
黒猫を持ち上げた際に、白猫が倒れたので、
『立てよ国民ッ!』
『やだ、寝る』
という会話が成立したようだった。
「まだ6時だから、先に朝ご飯…っと」
白猫と黒猫をちゃんと立て直し、両方の頭をポンポンしてから部屋の戸を開けて階段を降りる。
十七段の階段を降りきって右に曲がると椅子と対になったテーブル、やや大きめの冷蔵庫。
後はグリルやコンロ等、やや立派なキッチンがあるだけだった。
椅子は四つ。
だがそのうち三つは薄く埃を被っており、長い間使われていないようである。
やがて、目玉焼きを乗せたトーストと、ツナとキュウリ満載のトーストを乗せたプレートをテーブルに置き、あまり埃が被っていない椅子に座る。
目玉焼きを一瞬で平らげ、それが乗っていたトーストにかぶりつく。
焼きたてのトーストはさっくりとしていて、一口頬張ると『さくっ』と音がする。
少女一人しかいないリビングにその音は消えて、少女に少し寂しさを感じさせる。
一枚目のトーストを完食して気付く。
飲料物がないのだ。
椅子から立上がり、ぺたぺたと足音を立ててコンロの方に移動する。
カチン、とコンロが火を付ける時に鳴る音が鳴った。
ポットに水を適量入れて火にかける。
戸棚を覗き込み、お目当ての飲み物は無いかと探す。
「もか〜♪もか〜♪……切らしてるや…」
『もか』という飲み物がなく、不機嫌な顔をしたが、冷蔵庫に牛乳が備蓄されていたので機嫌は直ったようだった。
「あ…お湯……」
少女は考える。
今沸かしているお湯と今持っている牛乳。
どうにか共存する事ができないのか、と。
難しい顔をして考える。
(牛乳、牛乳、牛乳、牛乳、牛乳、牛乳…………!)
何かを閃いたのか、表情がぱっと笑顔に変わり、再び戸棚を確認する。
(あった!)
その手に持たれていたのは、紅茶のティーパックと紅茶用の大量の砂糖。
「混ぜてぇー、ミルクティー♪」
まるでタイミングを見計らったようにお湯が沸騰する。
急いでカップを出して、ティーパックを準備する。
お湯を注ぎ、よく味を染み渡らせてからティーパックを抜いて砂糖と牛乳を加える。
だが、現実は甘くない。
ポットのお湯は全て注がれて、ティーパックが入ったカップちょうど一杯分。
ティーパックを抜いてカップの九割
大量の砂糖が入れば、九と〇.五割。
カップはあくまでティーカップ。
砂糖が大量に必要なくらいの牛乳の量は、当然、入らない。
というか、ミルクティーにならない。
だから、少し飲んで牛乳を注ぐ。
という端から見れば『?』一直線な行動を取る以外に答えは無い。
所要時間は四分。
それでカタがついた。
(紅茶…なくなった…)
馬鹿一直線。
少女は仕方がないと思い、牛乳をティーカップに注ぎ、トーストを乗せた皿の隣りに置く。
ツナとキュウリとトーストの味と食感を楽しんだ後、牛乳を飲んで口直し。
(さて、歯磨き歯磨き)
リビングから出て左にある階段を素通りしてその奥の左に続く廊下を歩く。