ツバメK-1
「はあっ…はっ…はあっ…」
ただただ走る。
考えていることはひとつだけ。
椿芽のこと。
やっと決心がついたと思ったら、もうこんな時間だった。
いつもの俺なら、明日でいいや、で終わっていた。
でも、もうそんな考えをすることはやめたんだ。
やっと本当に気付いたから。
俺が今まで、たくさん椿芽のことを傷つけたこと。
そのことを、あの男に気付かされたのは少々、癪だけど。
あの時、椿芽と会って話したくて……謝りたくて椿芽の会社まで押しかけてしまった。
でもまさか、あの男がいるとは予想外だった。
別れてしばらくした後、偶然にも椿芽を見かけたときに、隣にいた男だ。
しかし、いざ話してみると、あの男は椿芽が好きなくせに、謝れ、とか、待ってやる、なんてわけのわからないことを言い出した。
そのとき俺は“お前に俺と椿芽のなにがわかるんだよ”なんて、心の中で苛ついたけど、あの男はすべて見透かしていたんだ。
椿芽はずっと、俺が合コンすることを気にしていないと思っていた。
でも、本当は傷ついてたんだな。
俺は椿芽と付き合っていたのに、椿芽の気持ちを考えなかった。
恥ずかしながら、今になって実感した。
そして、自分は最低だったということを知った。
「はっ…はっ…くそ、雨か」
ポツ、ポツ、と大粒ながら控え目な雨が降り出した。
「……早く会いたい、椿芽に」
最終話
二羽のツバメ
数分もすると、その雨は“どしゃぶり”と呼べるものに変わっていた。
全身すぶ濡れになりながらも、足は止めない。
とは言っても限界がある。
激しい雨のせいで、服は重くなり、目の前は霞んで見えない状態なのだ。
「はあっ、はあ……ふう」
たまらず、通りにある小さな店の前で雨宿りを始めた。
どうやらそこは喫茶店のようで、入口に設置されたビニールの屋根を雨がバシバシと叩き、大きな音を立てている。
シャツの裾を絞りながら、頭の中を整理する。
とは言っても、相変わらず“ひとつのこと”しか考えられないのだけど。
早く会いたい。
会って、気持ちを伝えよう。