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『異邦人』
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『異邦人』-18

「俺、こんなトコにつっ立って何やってんだ?」

光は部屋の真ん中に立ち尽くす自分に首を捻った。
「明日も早いんだし、顔洗って寝なきゃ」
誰に聞かせるでもなく呟くと、光は洗面所に向かう。
「うわっ!なんだコレ?」
顔を洗って鏡を見ると、そこには泣き腫らした様に目を真っ赤に充血させている自分が写っていた。
「何があったんだけ?思い出せないなぁ……しっかしヒデェ顔だな。」
多少、不審に思いながらも気を取り直して部屋に戻ると光はベッドに入る。

「やけに布団が生暖かいぞ……やっぱ、さっきまで寝てたのかな?俺ってば、夢遊病の気があったのか?まぁいいや、とにかく寝よ寝よ……」
そして目をつぶり、光は眠りに就いた。落ちる瞬間、更に光は呟く。
「なんだろ、なんかいい匂いがするなぁ……」
ついさっきまで、ここにルーンが寝ていた。その残り香が微かに漂っていたのだが、今の光は当然その事に気付く筈もなかった。


更に翌日、光は部屋の中でしきりに首を捻っていた。
どうにもおかしい……自分は一人暮らしの筈なのに、部屋に誰かが住んでいた様な形跡がある。

たとえば歯ブラシ……、洗面所になぜか二本ある。買った記憶はあるのだが、なぜ両方置いてあるのだろう?細かい事を挙げれば、まだまだある。それよりも何よりも光の頭を悩ませている大きな出来事……

「コレは……一体?」

思わず光は絶句する……
取り込んであった洗濯物を整理していた時に、ソレは現れた。光の目の前にある、一枚のパンティー……

なぜ、こんなモノが?

いくら考えてもソレが自分の部屋にある理由が光には見付けられなかった。


光の頭に大いなる疑問を残しつつ、それでも日々は流れていく。秋も深まり、季節が冬の訪れを告げ始めた頃、隣の部屋の賑やかな音で光は目を醒ました。

なんだろ、こんな朝早くに……と光が思っていると部屋の扉がノックされる。上着を引っかけ、扉を開けると目の前に一人の少女が立っていた。セミロングの黒髪に抜ける様な白い肌、見事なまでのコントラストに光は思わず目を奪われる。
「始めまして。今度、隣りに引っ越して来ました、真壁留衣っていいます。よろしくお願いします。」
そう言って少女はペコリと頭を下げた。
「あ、ああ……俺は、井上光、よろしく。」
人懐っこそうに話しかける少女に光はつられる様に笑う。
「あの……、あたしのコトは気軽に留衣って呼んで下さい。」
「じゃあ俺のコトも光って呼んでくれよ、留衣ちゃん。」
光がそう言うと留衣は、にっこりと笑った。そして恥ずかしそうに俯きながら小声で
「後で、遊びに来てもいい?この辺りのお店とか教えて欲しいの……」
そう言った。

「いいよ、喜んで。なんなら今上がるかい?」
「ホントに?」
光は頷き、扉を開けると留衣を招き入れる。
「そこらへんに座っててよ。なんか飲む?」
「うん!じゃあ……ココアがいい!」
台所から光が声をかけると部屋の方から、そう返事が返ってきた。

(ココアか……そう言えば、アイツも好きだったよな……)

ズキンッ!

光のこめかみに痛みが走る。
「何言ってんだ?俺。アイツって誰だよ?」
頭を振って光は部屋に戻った。留衣はテーブルの脇に、ちょこんと座り振り返って光を見るとにっこりと笑う。

ズキンッ!

また、こめかみに痛みが走る。こんな光景を前にもどこかで……それは既視感(デジャヴュ)の様に脳裏を駆け抜けた。こめかみを押さえ、光は顔をしかめる。

「どうしたの?」
「いや、何でもないんだ。ごめん」
心配そうに、こっちを見る留衣に向かって光は手を振った。それから、しばらく地図を見ながら光と留衣は話していた。ここのお店は安いとか、ここの料理はイケるとか……。ふいに何かを思い付いた様に光は言う。
「なぁ……留衣ちゃんって何処から引っ越して来たんだ?」
突然の質問に驚いた顔をして彼女は光を見た。
「え?えーと……内緒!いつか、教えてあげる♪」
「なんだそりゃ?……ま、いいか」
そう言って光は笑う。笑いながらも光は不思議な気分を感じていた。あの日以来、自分は人を遠避ける様になっていた筈なのに今、楽し気に話している。そしてそれを嫌がる素振りすら見せていない自分がそこにいる事に……


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