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『異邦人』
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『異邦人』-13

「でも、不思議な娘ね……。私が、こうしていられるのは、この娘の能力(ちから)のおかげみたいだし……」
「ルーンの能力(ちから)?」
光の言葉に美幸は頷く。
「そうとしか考えられないの。輝きの中に入った時、強い想いを感じたわ。この娘、貴男の事が好きなのね……ううん、愛してるって言った方が早いかもしれない。真っ直ぐで、純粋で……そんな想いが同調(シンクロ)したんだと思うわ。」
「ルーンが?まさか!」
「相変わらず鈍いのね……」
ルーン(美幸)は呆れた様に溜息をついた。そして自分が、なにも着ていない事に気付くと上着をたぐり寄せながらジロリと光を睨む。
「ところで、どうして裸なの?光!貴男、まさか……」
「ち、違うよ!!俺は体を拭こうとしてただけで……本当だよ!」
うろたえる光を見て彼女は吹き出した。
「ふふっ、嘘よ……わかってるわ。でも、まだ信じられないわね……また、こんな風に話す事ができるなんて……。ねぇ、光?この娘って何者なの?」
何者なの?……光には答えられなかった。むしろ自分が聞きたいぐらいなのだから、当然とも言えた。光は立ち上がり、キャスター付きの姿見を持って来るとルーン(美幸)の前に置く。
「口で説明するより見た方が早いだろ?彼女の姿を見て、どう思う?」
鏡に写った自分(ルーン)の姿を見て、美幸は息を飲んだ。まじまじと見つめている彼女に光は更に一言付け加える。
「ちなみに本当の瞳の色は淡いブルーだよ。」
そんな光の言葉に、彼女の頭に閃く一つの答え。しかし、あまりにも現実離れしている答えに、ルーン(美幸)は言い淀んだ。

「まるで、おとぎ話みたいだろ?」
そんな彼女の心を見透かした様に、光は呟く。
「じ、じゃあ……やっぱり……エルフ……なの?」
「……か、どうかはわからない。でも……」
光は立ち上がると、ルーン(美幸)の横に並んでベッドに腰掛けた。
「出会ってから今まで、不思議な事だらけだったし……」
「不思議な事?」
「…ああ…」

煙草に火を付け、一息つくと光はルーンと出会ってから今までの経緯(いきさつ)を話し始める。初めての出会い、心に響いた声、突然に言葉が通じる様になった事から、光の心を覗いた事まで……
「そう……そんな事があったの……」
どれもこれも非現実的な事なのに美幸の反応は、あまり驚いている風ではなかった。
「あんまり驚かないんだな…本当の事なんだぜ?」
「わかってるわ。だって今、貴男と私が会えるなんて奇跡みたいな事が起きてるのよ?疑う訳ないじゃない。」
「そりゃそうだよな。」

今更何を?とでも言いたげな彼女の台詞に光は、あっさりと頷く。ルーン(美幸)は軽く口に手を当てて、くすくすと笑っていた。あの頃、何度も見た懐かしい仕草。知らず知らずの内に光は目を細める。ひとしきり笑った後、ふいに彼女は真顔になり光を見つめた。
「光…そろそろ、今度こそ本当にお別れね……」
「え?」
「彼女が目を覚ますわ……もう、行かなくちゃ…」

(もう、行かなくちゃ)

どこに?

聞かなくたってわかっている。
それは、とても遠い場所。二度と会えないところ……

頭ではわかっていても、返す言葉は見つからない。光は何も言えずにただ黙っていた。
「光、お願いがあるの。いい?」
そんな沈黙を破る様にルーン(美幸)が話しかけてきて、光は我に返り慌てて頷いた。
「え?あ、ああ…」
「自分の身体じゃないのが悔しいんだけど、キスして……」
光は無言で頷き、優しく彼女を抱き寄せる。ゆっくりと近付く顔が途中で止まった。

躊躇(ちゅうちょ)……

そう、光は躊躇していた。なぜなら彼女の身体はルーンなのだから。
「お願い……私(ルーン)が私(美幸)でいられるうちに……」
そう彼女は呟いた。

すぐそこに別離の時が来ている……

認めなくてはならないのだ。知らず知らずに光の目から涙が流れ、そのまま光は彼女と唇を重ねる……
(ルーンちゃん、ごめんね。)
心の中で、そんな事を思いながら、光の抱擁に応える様に美幸は細い小さな手を光の首に巻き付けた。


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