飃の啼く…第8章-8
「お前を離したくない。今夜は。今夜だけは。」
私は、今にもフェードアウトしそうな意識の中で、聞いた気がした。
「ふっ、ぁっ、つむじぃ…キスして…」
むさぼるようにキスを交わす。
―私は獣になったんだろうか?
かまわない。飃と一緒に入れるなら、私は獣にだってなろう。
「ん、ふぁっ、ぁぅ…」
声を抑えきれない。ここはマンションなのに。
―だから?
隣の人に、聞こえちゃう…
―かまわない。
そう、かまわない。飃となら、なんだってやり遂げてみせる。どこへだって行ってみせる。
哀しくもないのに、涙が頬を濡らす。その跡を飃の指の先がなぞって、消してゆく。それでも止まらない涙を、飃が舐めとる。
「あぁ…っ」
暖かい舌先が、まつ毛まで乱してゆく。
かがみこんだ飃は、あまりに深く私を衝いて…
「ゃ、ぁ、飃…っ、くる、ょ…ぉ」
「一緒だ…一緒に…」
「―――っ!!!」
気がついたときには、東の空が、うっすらと白んでいた。新聞配達の原付の音が聞こえる。
「っくしゅ!」
シーツの中で身体がはねる。気づくと、私は裸のまま寝ていたようだ。
「飃・・・?」
ベッドには居ない。どこに行ったの!?
「つむ…!!」
あわててベッドから降りると、やわらかいものを踏んづけた。
飃だ。
床で寝ている。
その寝顔があまりに平和で、穏やかで、私は布団を床にしいてその隣に横になった。
朝の光に目覚め、動き始める街。私たちは、その片隅で、ひっそりと、私たちだけの眠りに落ちていった。