飃の啼く…第8章-4
「飃。私は耐えられる。飃が思うほど、弱い女じゃないよ。だから…ね?」
飃は、何も言わずに、身体を私のほうにもたせ掛けた。私はひざ立ちになって、背の高い飃の頭を包み込んだ。
飃は、私の体に恐る恐る手を回して、静かに―本当に静かに―涙を流した。
カーテンの隙間から月の光が差し込んでいた。私は、飃の頭を撫でながら、遠い記憶の中にうずもれていた、幽かな歌声を思い出していた。
『坊やの母(かか)は何処(いずこ)じゃろ
坊やの父(とと)は何処(どこ)におる
お山に訪ねて聞いたとて
帰ってくるのは木魂(こだま)ばかり
ととは何処(いずこ)におるのじゃろ
かかは何処におるのじゃろ
坊は川にも聞いてみた、
草にも鳥にも聞いてみた
誰も教えてくれはせぬ
坊やのかかは病にて、
坊やのととは戦にて、
帰らぬものとなりにけり
ととは何処におるのじゃろ
かかは何処におるのじゃろ
坊は夜道を一人行く
すると何かがてらしおる
坊は夜風に聞いてみた
あの灯(ともしび)は何ぞやと
風は答えていったとさ。
あの灯は汝(なれ)の父、
あの灯は汝の母。
毎夜ふたりはああやつて
おまへの夜をてらすだろ
あの灯は夜の星
おまへをてらす夜の星』
幼い私の記憶の中で、優しい誰かが歌って聞かせてくれた歌。親戚か、おじいちゃんだったかもしれない。父が亡くなったあと、私は一人でこの歌をよく歌った。歌い終わる頃には、私はいつも泣き止んでいたものだ。
「さくら…」
私の胸の中で、飃が言った。