飃の啼く…第8章-2
「さくら〜?顔色悪いよぉ…?」
「ん〜…」
仲良しの茜が、おにぎり片手に私を覗き込む。昼休みの教室は騒がしかったけど、私と茜が座っている机の周りは静まり返っていた。
「昨日も寝れなかったわけ?」
「ん〜…」
茜は「こりゃ重症だ」というため息をついて言った。
「彼氏とうまくいってないのかぁ?」
茜には、彼氏がいるとだけ伝えた。その彼氏が、没落した神属の、滅びかけている村の長だなんていえないし、きっと信じてもらえない。
「まあ…そんなとこ…」
飃と私の関係については、私はいつも多くを語らない。茜も、それを知っているから、いつもは深入りしないのだ。が。
「ねぇ茜…?」
「ん?」
「もしさ、あんたの彼氏のええと…日向くん、だっけ?」
茜はうなずいた。日向君は茜の幼馴染の彼だ。
「彼がさ、すんっっっっごい落ち込んでるとするじゃん?で、彼は負けず嫌いで、茜にそんな姿を見せたくないって、一人で我慢して明るく振舞ってるとしたら、どうする?」
「ん〜。そおだなあ…一発殴ってやるかな。」
「はぁ?」
私は机に突っ伏していた身を起こした。
「だってさ、もし、あいつが悩みを一人で抱えてて、それを私に隠してるってことはさ、私のことを信頼して無いって事じゃん?」
「ふむ…。」
「私があいつの悩みを解ってやれないとか、悩んでるあいつを情けなく思うとか、そういう風に考えてるとしたらさ、思い違いだもん。むかつくよ。私のこと、わかって無いじゃん?」
「じゃあ、もし、自分が落ち込んだら、二人の関係がぎこちなくなる、っていうのを恐れてるからだとしたら?」
「同じことだよ、だって、そんなことで崩れる信頼関係だって、そいつは思ってるってことだもん。」
茜はけろりといった。でも、目はニヤニヤしている。
「で、つまり、そういう状態なわけね。」
私は笑って返した。
「そゆこと。」
なんだか、茜はうれしそうだった。
「そっかそっか!」
「ねえ、あんたと日向君、付き合って何年だっけ?」
「え〜っと…中学三年からだから…2年とちょっとかな。」
「続いてるねぇ…」
中学から高校の恋愛なんて、練習のような物だ。少なくとも私は、この学校で1年以上続いている二人組を知らない。