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堕天使と殺人鬼
【二次創作 その他小説】

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堕天使と殺人鬼--第13話---1

 元々充満していた血臭が更に濃くなり、どうしようもない不快感が付き纏う。鼻にこびり付いた生臭さを拭い去りたい。喉元が熱くなり、次の瞬間には吐いていた。




オリジナル・バトル・ロワイアル

堕天使と殺人鬼 --第13話--
〜悪夢の始まり篇〜





 逆流して吐き出してしまった自身の嘔吐物を呆然と眺めながら、水樹晴弥(男子十七番)は乱れた呼吸を繰り返していた。そんな晴弥を、汚いと咎める者は一人もおらず、目前の死体に釘付けでむしろ気付く様子すらない。気力がないのだ。晴弥も、その例外ではなかった。
 無理矢理見せ付けられたクラスメイトの死に、身体の震えが止まらない。逆らえば殺される――それを改めて知らしめられ、もう何をする気力も残されていなかった。
 抱き抱えるようにして回していた腕の力が緩み、林道美月(女子十九番)が前屈みに掌を付いて身体を支えているのを見ても、何かをしてあげなければと思う気力さえ失せていた。
 それでも三木原肇が手を叩いて生徒たちの注目を引いた時には、虚ろな瞳をさ迷わせながらもそちらに向き直り、その薄い唇から発するだろう言葉を大人しく待ち受けた。逆らうことが許されないなら、もう、大人しく受け入れるしかない――晴弥はそうとも思うまでになっていた。
「うん。金沢が自分から命を投げてくれたお陰で、みんなよく分かってくれたみたいだね。」
 その言葉に晴弥は心の中で静かに頷く。時々啜り泣くような声が聞こえるだけで、後は不気味なくらい静かであった。教室に充満している生々しい血臭が、更に不気味さを引き立てている。当たり前だ――目の前に、顔見知りの少女の死体が二つも投げ出されているのだから。
 晴弥はふっと唇を引き上げ、無意識に自嘲するような笑みを浮かべていた。
「じゃあ、そろそろ説明に入ろうかな。全く、このクラスは問題児ばっかりだから、全然話しが進まなくて困ってたんだけど……」
 言いながら三木原は、恐らく金沢麻也(女子三番)から飛び散った血液の付着している黒板に、白いチョークで何か絵を描き出した。丸みを帯びたひし形のような絵の中に小さく印のような物を何個か描き、最後の一箇所には音を響かせながら罰印を入れた。
「えーっと、みんなこれが何か分かるかな?」
 罰印の、二つの線が調度折り重なった部分を力強くチョークの先端で叩きながら、三木原がこちらに振り向く。真っ白なチョークの粉が、衝撃でひらりと落ちた。
 振り向いた三木原を見た晴弥は一瞬、ぞっとして肩を竦める。彼が身に纏っているグレーのスーツや、その下の白いブラウスが先程までとは打って変わって別の色へと豹変している。茶色に近い真っ赤な水玉模様が鮮やかに描き上げられたそれが、金沢麻也の返り血を浴びたためだと一目で分かった。
 それに気付いていながら、三木原は何をするでもなく、また気にした素振りも全く見せずに淡々と黒板に描かれたひし形の絵について、語り始めた。
「簡単なものだから解り難いかも知れないけど……これはみんながこれから活躍するために用意された、会場の地図です。周囲は大体十五キロで、小さいけど世界地図にも載ってる立派な島です。それで……」
 続いて三木原は、お世話にも上手とは言えない(地図を描くのに上手いも下手もあるのかはさておき)その地図の上に一から十までの数字を、左側にAからJまでの英字を書き込むと、垂直な線で結んだ。チョークを走らせる軽やかな音が何度も続いて――やがてそれは、一つ一つが均等に区分されたエリアのような形を表した。


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