飃の啼く…第7章-1
狗族という人種が、車の免許を取得しえる
のかという問題については、議論の余地なく、否だとおもう。小さい頃、いくら村の悪ガキどもと、(本人が言うには、「拝借した」)車で遊んでいたか知らないが、それだけは譲れない。
「運転技術は一流なのだぞ…」
電車の中でも、まだそんなことを言ってる。
「あのねえ、一回おまわりさんに見つかったら、私まで共犯にされちゃうのよ?学校に連絡が行ったら退学じゃない。」
私の容赦ない正論にぶすくれながらも、ちらちらと窓の外を見ているところからすると、電車の旅も満更でも無い様子。
学校を休んで、私たちは飃の故郷へ向かっている。村に残っている彼の弟からの便りでは、ついに「奴ら」の暴走を抑えきれなくなったのだという。
「今までは力不足で、とてもではないが歯が立たなかったが…」
旅に出る前、飃は説明してくれた。
「今なら何とか相手に出来るはずだ。己の村を襲う奴らは数で攻めてくる…とにかく数だ。」
憎憎しげに語った。
「だが、俺の北斗と七星、さくらの九重があれば、倒すにもそう難しくあるまい。」
そう言って微笑む彼は、胸を張って村に戻れることで誇らしげに見えた。
駅弁の卵焼きが「甘くない」ことをのぞいて、電車の旅には満足が行ったようだった。(私の卵焼きは甘いのだ。)狗族に尻尾が付いていないのは、こういうときにうれしかったり楽しかったりするのを悟られないようにするためなんじゃないかと、最近思う。
「む…何を見てるんだ?さくら?」
「ねえ…ほんとはすっごく楽しいんでしょ。」
「な、なにをいう!こんなもの、所詮人間が作った電気で動く箱だ!」
…おかしな奴。
行楽シーズンから外れているこの時期、車内はどこもがらがらで、この車両にも、私たち二人しか居なかった。私たちは贅沢にも、4人用のボックス席を向かい合わせに座っていた。ウノやトランプも持ってきたけど、飃にはそもそも横文字を理解しようという気が無い。やることが無いので、そろそろ眠くなってきたとき…
「?ふわ!?ちょ、何して…」
「ん?」
「っ…!」
飃が私の座席に向かい合わせにひざをついて、覆いかぶさっている。私の弱点である耳を、執拗に攻める。