飃の啼く…第7章-14
焼け跡に横たわる負傷者を、残った女たちが必死に看病している。
「一体何人が―?」
「37です。」
イナサさんが答えた。
「申し訳ありません…われらが余りに…力不足だった…。」
そうして、イナサさんはあふれ出る悔し涙を右手で拭おうとして、それが失われていることを思い出した。血まみれの包帯にぐるぐる巻きになった右腕を、自分のものではないかのように暫し見つめる。
「イナサさん…」
飃は、村の一番隅の一角で立ち尽くしていた。傍らには、うずくまる若い娘。二人は、若くして、立派に戦った颯の亡がらの前にいた。自害だったという。自分の腹に、刀の柄(つか)まで…戦士にふさわしい、壮絶な最後…。
「あいつは・・・私の弟も同然だった…」
イナサさんがそんな二人の姿を見ながら言った。
「私は死んでも・・・あいつを守ってやれなければならなかったのに…」
イナサさんは、まだ見えるほうの目に、業火を宿して私の目を見た。
「さくら殿、そのような顔をしてはならない。お二人がやってきて、われらがどんなに勇気付けられたか。」
そこで、目をそらして、私の肩越しに後ろを見た。
「あいつらは…」
+++++++++
そいつらは、大群でやってきた。
百二十五もの小さな者と、そいつら全てを統べる、一つの化け物。
そいつには、変身の術も、小さな虫を使う必要もなかった。体を大きくする必要も無いし、人間の真似事をすることも無い。
―吾はこの地で、肉体と名を持つことにした…歓べ、犬たち。
突然の襲来に目を丸くする狗族の前で、そいつは言った。何とも耳に残る厭な声で。
「吾は…黷(とく)、吾が名は黷。」
そうして、タールのような響きが村中を汚し、そいつの身体は形成されていった。
名を得たことで、初めてそいつは「存在」を手に入れた。