飃の啼く…第7章-11
「飃、良いから何か…」
そう言って私は自分のリュックを探った。飴玉くらいならあるかもしれない…。
「…ところで女、手はどうした?」
空気が凍りついた。
「手・・・?」
私は、横たわったままのその子の腕を見た。
―――無い。
「化け物に、食われてしまいました。」
私はリュックを下ろした。
「自分のことだろう、それは。」
不意に、そいつは上半身を起こした。九重が繰り出された頃には、そこにあるのは脱ぎ捨てられた着物ばかり。
「まだ近くに居る!」
「ホホホホ…居るとも、お前の後ろに―」
硫黄のような煙の匂いが、背後から臭った。振り返って衝くと、また姿をくらましている。
「―上に」
今度は上。飃の隣にも、次々と現れては消えていく。やがてあたりは硫黄の煙だらけになった。
「くそう、見えぬ!」
お互い、闇雲に剣を振るうと危険だ。私たちには手が出せない…。
「ぐ…ぅ…!」
私の腹に、強烈な一撃が入る。
「薄汚い狗の子をこれ以上残せぬように、お前の胎を破壊してくれようか!」
次の瞬間にはまた姿を消し、甲高いわめき声だけがあたりに響く。
私が、飃の子を残す…?それを、こいつは出来なくしようとしている…?
戦いの最中に、最も抱いてはならない感情を抱いてしまった。