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ずっと、たいせつ
【大人 恋愛小説】

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ずっと、たいせつ-1

 この街の、中心を流れる河原辺りから吹く、暮れなずみの冷めた微風は、陽が沈み夜が訪れた今でも、街の中心を貫く大通りが帯た異様な程の熱気を冷ます事はなかった。
 街の南から北へと続くそこには、路面の上空にいくつものアーチが架けられ、華やかな電気仕掛けの装飾や笹の葉が隙間なく取り付けてある。
 そして、いつもならバス通りであるというそこの両側には光々と灯りを灯した神農が軒を列ね、行き交うのはバスではなく幾千の人の流れ……
 今日は月遅れの七夕、夏祭りである。


 俺は、流されながら、はぐれない様に彼女の手を引き、見慣れない頭上の飾りモノをチラチラと見上げながら、人混みの中で背中の彼女に声を投げる。
「なあ、このまま真っすぐ?」
 ここは彼女の地元で、何処をどう進めばいいのかサッパリ解らない。
 しかも今は祭り、この人だかりだ。
「えーっとね、もう少しで銀行のある交差点が見えてくるから、そこを曲がろう!」
「どっちに?」
「どっちでも!」
 人波に揉まれながら、彼女の言う場所へ頼りなく進んで行く。
 しかし、行けども行けども、銀行も交差点らしい場所も見えてこない。

 ったく、これだから大きな祭りとか、イベントは嫌いだ。

 実は、彼女に誘われた時から、こうなる事は容易に想像できていた。
 しかし、前もって浴衣を新調して張り切っていた彼女を目の前に、そんな事は到底言える筈もなく……
 気が付けばカレンダーの日付は、今日になってしまっていたのだった。

「ああっ、ねえ! ストップ、ストップ!」「……?」
 突然、背中から呼び止められる。
「ここが、その交差点!」
「ここ?」
「そう、ここ!」
 凄まじい人波に、辺りを完全に見失っていた。
 改めて周りを見回すと、確かに銀行の看板らしき物が見えて、信号器などの立ち並ぶ様子から、ここが交差点の中程である事が伺える。
「ああ…… で、どっちだ?」
「んー、右に行こうっ!」
 そう言いながら、彼女が指差した彼方は、大通りから外れた場所の所為か人の流れがまばらで、食事や飲み物を楽しむ人々や集まって談笑する人々で落ち着いた賑わいを見せていた。
「ここを抜けると、裏通りに抜けられるからさ? 一休みして、帰りは裏通りから行こう?」
 暑さの為に紅潮した、しかし疲れを感じさせない笑顔が問掛ける。
「ああ、そうだな」
 俺は内心ホッとしながら、それを気取られない様に答えると
「何か飲もう、買って来てやるからさ?」
と言い置いて、彼女の側を一旦離れた。



 手近な露店で適当に飲み物を買い、急いで戻りながら彼女のもとへ近付くと、何故かそこには彼女だけではなく見知らぬ男が居た。
 麻黒く焼けた肌にジンベエを着崩した、少し悪を気取った様な風体。
 親しげに話かけるその男に、彼女が楽しげな笑みで応えているのが見える。

 ナンパ…… か?

 思わず身構え、しかし更に近付くにつれ、どうやらそうではなさそうな事に気が付いた俺は、とりあえず飲み物を差し出しながら
「待たせたな」
と、声を掛けてみる。 すると、彼女が「ああ、来た来た」と振り返る横で、男はこちらを流し見ながら「ふーん」と声をあげた。
 そして
「なあ、ミーちゃん、男の趣味変わった?」
と、ニヤリとしながら彼女へ語り掛ける。


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