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ずっと、たいせつ
【大人 恋愛小説】

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ずっと、たいせつ-2

 ミーちゃんって……

 ちなみに、彼女の名前は美月という。
 だが俺は、いや俺の周りには彼女を「ミーちゃん」などと呼ぶ人間はいない。
「んー、そっかなぁ?」
「うん、そんな感じがする。 まあいいや、俺は戻るよ。じゃあな!」
 男は、そう言い置くと、颯爽と祭りの人波の中へ消えていった。
「なんだ、あなたの事、紹介しようと思ったのに」
 残念そうに彼女が呟く。
「あれ、誰?」
「ああ、友達」
 思わずムッとしながら訊いてしまったのは、あの男が余りにも失礼だったからだ。
 別に嫉妬とか、そういうもんじゃない。
「あ、飲み物、ありがとうね?」
 だから、手を差し延べて受けとる彼女のいつも通りの表情に、別に安心したりはしないのだ。
 
 そう、別に平気。

 俺は、何か他の話題が欲しくなって、何気無く辺りを見回す。
 周囲には先程より人の数が増えていて、のんびりと立ち止まっているのは難しい様に見える。
「なあ、ここも混んできたし、歩きながら飲もうか?」
「それも、そうね」


 とりあえず、裏通りへ。
 そこは、今まで歩いてきた大通りとは違い些か地味な様相で、おそらく地元の商店の人達が出しているであろう小さな屋台が、間隔を空けて道の両脇に数軒づつ並んでいるだけ。
 しかしながら、通り沿いに立ち並ぶ電柱には、細やかながらも七夕飾りが施してあって、祭りの最中である事をちゃんとアピールしている。

 これ位が丁度いいな……

 夜風が七夕飾りをサラサラと揺らし、先程の大通り辺りから聴こえる遠い祭り囃子が、人波に疲れた体に丁度心地よい。
 そして、それとは対象的に彼女の歩幅の狭い履物の音が、俺のすぐ傍から軽やかに響いて…… なんとなく、それを幸せと感じる。

「ここを、まっすぐいけば駅まで行けるからさ?」
「ああ、なるほどな」

 そんな言葉を交した刹那、どうしたものか彼女はピタリと、何かに気が付いた様に足を止めた。
「どうした?」
「あそこ、ちょっと寄っていい?」
 訊きながら指差す先には、小さな焼き鳥の屋台があって、地元の青年団か何からしい男達が数人集まっているのが見える。
 彼女は俺が応えるのを待たずに踵を返すと「ねえ、一緒に来て?」
と、俺の手を引きながら、そこに近付き
「おーす、久しぶりっ!」
と声を掛けた。
「ああ、ミーちゃんじゃん!」
「うは! ミーちゃん、浴衣かわいいっ!」
「ミーちゃん、今焼けるから食ってけよ!」
 集まっていた男達から口々に歓声があがる。
 彼女は、それに笑顔で答えながら
「うん、でも今日は彼が居るし、また今度ね」
と手を振って、その場を離れた。
「ミーちゃん、今度は俺と祭り行こうぜっ!」
「バカっ、俺だ俺っ!」
 歩き出した背中から、男達のはしゃぐ声が響く。


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