ずっと、たいせつ-3
「あれも、友達?」
「うん、友達!」
どうやら、我が彼女は地元では大層モテるらしい。
まったく、結構な事だ。
「ちょっと、何ムッとしてるのよ?」
「別に!」
「ははーん? もしかして妬いてる?」
「ねーよ!」
悪戯っぽく笑う彼女から、思わず目を反らす。
内心、実は少々複雑。
しかし、そんな俺の気持ちをよそに彼女は暫く歩くと、先程と同じ様に再びピタリと何かに気が付いた様に足を止めた。
「……どうした?」
「ごめん、また、ちょっと寄っていい?」
再び訊きながら指を差す先には、小さな駄菓子屋があって、やはり店先には地元の若い男達が数人集まっているのが見える。
またかよ……
先程と同じ様に、応えるのを待たずに踵を返す、そして俺の手を引きながら、そこへ近付いて行く。
足早に店先へ……
しかし、彼女は男達の集まっている方へは行かず店の中へと足を進め、中に入るや否や
「今晩は〜!」
と店の奥に、高く声を掛けた。
「あらあら、いらっしゃい」
店の奥からは、俺のお袋と同じ位の年格好の、気の良さそうなオバチャンが現れ、そして改めてこちらに向き直り
「あら、ミーちゃん、久しぶりね」
と笑みを溢す。
「ホント、久しぶり! オバチャン、元気にしてた?」
「ええ、お陰さまでね。……あら、素敵な浴衣ねぇ」
「でしょ? 奮発したのよ、お店で見付けた瞬間にビビッときちゃってさ?
もう、ずっと大切にするんだぁ!」
まるで少女の様に、袖を広げて浴衣を披露する彼女に、オバチャンが
「ミーちゃんは、ホントに昔から変わらないわねぇ」
と更にクスクスと笑う。
「えっ? なんで?」
「だって…… ミーちゃんはさ?
小さい頃いつも、お母さんに新しい洋服を買ってもらうと、私の所や近所の子の所に見せに行っては『ずっと、たいせつにするんだぁ』って……」
「ええっ? そうだっけ?」
照れながら頬を紅くする彼女に、俺は思わず小さく笑ってしまった。
なんとなく想像出来るな、コイツの子供の頃がさ……
「あ!何、笑ってるのよ」
「いやいや、別に?」
そんな二人のやりとりを眺めていたオバチャンが、突然「なるほどね」と声をあげる。
「ん、オバチャン?」
「ねえ、ミーちゃん。今日見せに来た『ずっと、たいせつ』は、浴衣じゃなくて彼でしょ!」
言われた瞬間、顔から耳まで赤くなって、彼女は固まった。
ちなみに俺も…… 右に同じ、だ。
「あはははっ! 二人とも赤くなっちゃって! 良いねぇ、青春だねぇ!」
店の中には、オバチャンがカラカラと笑う声だけが響き、そしてそれは彼女が「もう、冷やかして……」とムクれながら、手を振り店を出るまで続いた。