ICHIZU…D-7
「それ、本当ですか?」
「ああ…コーチが見つけたらしい。だから試してみろって…」
「…分かりました」
湯田がベンチに下がり、プレイ再開される。信也がセット・ポジションに構える。佳代は信也から視線を外さず、じりじりとベースを離れる。信也が軸足を素早くプレートから外す。佳代は頭からベースに戻った。
(確かに当たってる…)
再びセット・ポジションに入る信也。今度はホームに投げた。佳代はベースに戻りながら、アドバイスは間違い無いと確信した。
(次で試してみよう)
再びベースを離れる佳代。その目は信也のグローブを凝視している。信也の顔がホームを向いた。
(いまっ!)
つま先に力を入れて地面を蹴った。信也はホームに投げた。バッターの仲谷は大きな空振りをして、キャッチャーの動きを妨害する。佳代への援護だ。
山崎はボールを捕ると、素早い腕の振りでセカンドへ投げた。
セカンド田村がベースに入る。佳代は廻り込んで滑り込む。田村はボールを捕ると、足元にタッチした。
セカンドの塁審は、しばし間をおいてから両手を広げた。
「今のはアウトだろうが!」
田村が怒鳴る。塁審と言っても2年生だ。先輩から怒鳴られてオロオロしていると、
「亮二!審判のジャッジは絶対だろ」
信也に咎められて、田村はバツが悪そうに〈スマン〉と言うとボールを信也に返した。
「グローブの位置ですか?」
ベンチでは、湯田が永井のアドバイスの内容を皆に教えていた。
「ああ、牽制とホームに投げる時のグローブの位置が違うらしいんだ」
「よく見つけましたね。コーチ」
直也が永井に訊いた。
「これが終わったら言うつもりだ。県大会までに矯正しないとツラいだろうからな」
仲谷はセカンド・ゴロを打ち、佳代はサードに走った。これでワン・アウト3塁。バッターは3番大森。外野フライでも1点のパターンだ。
Bチームのベンチが騒がしい。レギュラー相手に自分達が先制点を入れるかもしれない状況が信じられないようだ。
それはAチーム、とりわけ信也もそう思っていた。山崎がボールを受け取りマウンドに駆け寄ると、信也は苛立ちの表情を露にした。
山崎がボールを渡しながら訊いた。
「満塁にするか?」
「そんな事出来るか!勝負だ」
「分かった。」
山崎は信也の腕をポンッと叩いて戻って行く。
大森が右打席に入り、入念に土をならして構える。大柄な体格ながら構えは小さい。
山崎がサインを出した。信也は頷くとランナーの佳代を警戒しながらゆったりとしたフォームで投げた。外角低めのストレート。大森は見逃した。