ICHIZU…D-6
「大会もうすぐよね。川口君も出るの?」
「あ、ああ…」
有理の言葉に生返事で答える直也。だが有理は全く意に介さず、
「1回戦は見に行くから」
「エッ、ホント?」
「うん。生徒会と先生達で行く予定なの」
有理は笑顔で答える。直也はその表情につられて嬉しそうだった。
打席に入る佳代。先ほどまでの笑顔は無い。
(何とかしないと…)
相変わらずゆったりとしたフォームから投げる信也。内角低め。佳代は素早くバントの構えをする。
バットに当たった。ボールはファースト側に転がる。信也は身体がサード方向に流れて対応出来ない。
ファーストの高谷がダッシュして捕りに行くが、その横を佳代が走り抜けた。Bチームの初安打。ベンチから歓声と拍手があがる。
「スゴイ、スゴイ!」
尚美と有理も拍手を送る。そばで見ていた直也は驚きの表情を浮かべていた。
「アイツ…出やがった…」
「そんなに凄いの?」
有理は直也に訊いた。
「ああ…まだ誰も塁に出てねぇんだ…」
「じゃあ、カヨちゃん才能有るんだ」
「努力さ…」
ポツリと答える直也。
「じゃあ川口君も頑張らなきゃね」
「ああ、そうだな…」
と、ここまで答えて直也はとなりを見る。有理と話している事をすっかり忘れていた。また赤面する直也。が、有理はその変化に気づかない。
「あの…向こうの日陰で見るといいよ…ここは危ないからさ」
直也はそう言うとベンチに戻ってしまった。尚美は有理を連れてベンチを離れながら彼女に対して〈ドンカン〉と言い放つ。
「タイムお願いします!」
永井が椅子から立ち上がる。そして、控えの湯田を呼び寄せると何やら伝えた。
湯田は驚きの表情のまま伝令役としてグランドに出ると、佳代を呼び寄せて永井のアドバイスを伝えた。
聞かされた佳代も驚きの表情を浮かべ、湯田に訊き返す。