舞子 〜想い〜-2
「もしもし」
(前を歩いてるヤツ、邪魔だな…)
「…セイちゃん?」
思いがけず、の、声。
「まっ…ねぇ…姉さん!?」
足が止まる。
以心伝心か…久しぶりに聞く舞子の声は、いつもと変わらず可愛くて、少しハスキーで、心地いい。
目を閉じると舞子を近くに感じる。
「どうした?」
自然と声が甘くなる。
胸が踊る。
顔がニヤける。
伝えたいくらいだ、今すぐに。
俺の気持ちを。
「あのね、隆史知らない?」
固まる笑い。
冷えていく体温。
そして俺は現実に引き戻される――
「隆史と…連絡がとれないんだけど」
心配そうな舞子の声。
一瞬でも浮かれていた自分がバカらしくなる。
(何を期待してるんだ俺は…)
「さぁ…隆史とは昼休み以来会ってねーよ。午後の授業も出てないし」
俺はちゃんと自然に喋れてるだろうか。
ちゃんと弟になれてるだろうか。
舞子…
「そっか、ありがと。ごめんね」
愛してる――
伝わらない。
伝えられない。
切れた携帯を握りしめる。
壁にもたれて、廊下の窓から空を見る。
青空が、すごい速さで曇っていく。
俺の心みたいに…
「早く帰ろう…」
帰ってメシでも食えば忘れられる、こんな気持ち。
傷付くのも、悲しいのも慣れてるんだ。
いつだって、そうなんだ。
もぉ慣れてるんだ…
重い足と心を引きずり、家に着く。
こんなに早く帰るのは、いつ以来だろうか。
早速リビングへと入る。
リビング続きのダイニングキッチンには、誰も居ない…
(あれ?)
食卓の上で俺を出迎えてくれたのは、2つのカップラーメンと手紙。
『パパと食事に行ってきます。愛する舞子、清十郎へ。 ママより』
(…愛する娘と息子にカップラーメンかよ?
こんなの1人で食ったって、何も忘れられねーよ。むしろ悲しみが増すぞ…)
ため息が出る。
携帯を開いて、着信履歴からエナを探す。
通話ボタンを押すところで、手が止まる――