結界対者・第二章-4
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「三馬鹿…… !」
間宮が呟き、身構える。そして
「いい? 仕掛けて来ても、相手にするんじゃないわよっ!」
と、耳打ちをするように俺に言う。
「あんなの、初めから相手にしてないぜ」
「うそ! だったら昨日のアレは何よ。アタシが助けなかったら、アンタ今頃は檻の中よ」
気が付くと、三馬鹿は俺達の近くまで来ていた。
目を反らすのもシャクだが、目を合わせてイザコザの原因を作るのも頂けないから、なにくわぬ顔をしてやりすごす事にする。
間宮はといえば、胸ポケットから覗いている銀時計の鎖に手をかけて、おそらく俺が「やらかした」時の為に臨戦態勢をとっている様だ。
……てゆうか、少しは信用しろよ。
三馬鹿が来る、そしてこの歩道の上で行き違う。
あからさまな敵意の視線を感じるが、俺は気付かないふり。
しかし、それと同時に聴こえてきたのは、想像もしていなかった反応だった。
「ちっ、柊の奴、なんで赤目と居るんだよ」
「いつ見ても気味がワリィな、あの赤目は。行こうぜ?」
赤目……
思わず振り返り、間宮に視線を投げ掛けててしまう。
間宮は少しだけ唇を噛んで、その双眸を足元に落とした後、すぐに元の表情にもどって
「ふん、お前らの方が、よっぽど気持ち悪いわよ! 男のクセに、いつも三人でベタベタくっついてさ?」
と吐き捨てた。
そして「あーあ」と溜め息にも似た声をあげると
「また、アンタを助けちゃったわねぇ。後で何か奢りなさいよ?」
と、ニヤリと微笑み、踵を返して学校のある方向へ向かって歩き出した。
学校へ着いて、授業が始まった後も、俺はなんとなくボンヤリと、間宮の事を考えていた。
赤い目…… か。
確かに意表を突かれるが、それほど悪くないと思えるのは、俺自身が普通じゃないからだろうか。
この学校の、他の奴らも間宮をあんなふうに見てるのかな……
ふと、そんな事を思い付いた俺は、今朝の学校へ向かう時の間宮の様子を思い出して、そしてある事に気が付く。
そういえば、学校に着いて、互いの教室へと向かう為に廊下で別れるまで、間宮に声を掛けたり挨拶を投げる者は居なかった。
それどころか、よくよく考えると、避けられていた様な感じすら覚える。
間宮は、ずっと、ああなのだろうか……
確かに、とっつきにくい一面はあるにせよ、赤い目をしているからといって、それだけの為に避けられる様な悪い人間ではない。
俺は、間宮と出会って、まだ間もないけど、なんとなくそれは解る。
後で会いに行ってみるかな……
俺は、時計を横目に、昼休みになったら間宮の居るクラスを訪ねてみる事にした。
まあ、訊いておきたい事も山ほどあるし、な。