世界の中でたたずむ、人-1
不思議な人。
それが彼の第一印象だった。 平凡がとても似合うはずなのに、彼を知れば知る程、それは非凡と名付けるのが一番しっくりくる。そんな人だった。
『世界の中でたたずむ、人』
「もうすぐね、終わるんだ。僕の第一次人生が。…だから今からみんなにお礼をしていくんだよ。これはその―お礼なんだ」
始めて私達が出会った時、彼はかろうじて世界に繋ぎ止められているかの様に、そう言った。その言葉はまるで――ひらひらと地に落ち行く落ち葉の様に静かで、フツフツと沸き上がる溶岩の様に強大であった。
その後その台詞は、奇妙に私の耳に残り、心のどこかをくすぐり続ける事になる。
人はそれを、恋と呼ぶのかも知れなかった。
[静寂の中、始まった恋]
なんて言うと、ロマンチックすぎるかも知れない。けれど‥‥この恋に名前をつけるとしたら、きっとそんな名前をつけるだろうと思う。
◆ ◆ ◆
私の恋について話す。
これはまぎれもなく、“私”の話である。誰の話でもなく、私の話なのだ。
◆ ◆ ◆
その日私は、屋上にいた。
私が住んでいるマンションの屋上。周りの建物からすれば、ぬきんでて高いこの屋上は、私のお気に入りの場所なのだ。
夜には星達が近くで輝き、夕刻には彼方で太陽が手をふる。朝は私を朝陽が出迎え、昼にはポカポカの陽が私を慰めた。街のビル達が出す威圧感も弱まり、逆に飽和した暖かみが私を包む。
気付けば眠ってしまった事もしばしばある程、私はこの場所が好きであった。
その日も太陽が暖かく、心地よい空を眺めながら、午後からの時間を消化しようとしていた。
昼間ということもあって、他にも人がチラホラいる。若いカップルが二つ、それと読書をしている男性が一人。隅っこの方では猫と戯れながら絵を描いている人もいた。
当然ながら、ここは私だけの空間では無かった。 誰でも入れるし、道路からも遠いのでかなり静かでもある。拙いベンチが数個並び、自動販売機も備わっているし。近くの住民にも結構、利用者は多い。くつろぐには持ってこいの場所なのだ。
だから周りの人達は気にならないものだ。
この様な気持ちの良い日に決まって、彼は現れる。いや、こんな日にしか現れないのかもしれない。しかしそんな事はどうでも良くて、重要なのは現れた事実なのだ。
彼は決まって、こんな日に現れる。――ほら、今日も―
◆
「やぁ」と、彼は言って座った。
私の隣、距離にして30センチぐらい。
「こんにちは」と、私は会釈した。
努めて平常を装おって。しかし私の胸は宴会を始めたかの様に騒ぎだし、私の平常心をくすぐりだした。
私はこの人と話す時、いささかながら警戒をしなければいけなかった。彼の話は面白く、私を引き込む“何か”があるのだが、必ずどこかで私に質問を繰り出すのだ。 これ、といったタイミングは無いに等しい。かなりの確率で、いきなりなのだ。
今回も、いきなりであった。 前触れは、いつも無い。