飃の啼く…第6章-5
「はぅ…飃…おねが…!」
震える声で言う。でも可笑しい。心の中では「やめて欲しい」なんて、ちっとも思って無いのに。
「・・・っ」
ようやく、飃が開放してくれた。
研ぎ澄まされた私の中で脈打つ彼のものは、それだけでまた小さな高まりを呼んだ。
「ッふ、ぁ…。」
潤んだ目を、閉じることも忘れてベッドに横たわる私。
どさっ、と、私の横に飃が倒れこんできた。今日ばかりは、その微笑が悪魔の微笑みに見える。
「い〜じ〜わ〜る〜…」
意図せず涙声になってしまう。それほど今日の飃は容赦なかった。
「でも、良かったのだろう?」
「…ふん、だ。」
何でもお見通しってわけね。
熱が引いた身体に、夜の冷気が忍び寄り、私は身震いして布団にもぐりこんだ。
ちょうど0時を指した時計の、2本の針が、きらりと光って寄り添っていた。
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「そうか、やはりそこにいたか。」
薄暗い部屋。否。暗闇の部屋の、中央に浮かび上がる人影。
「はい…パパ…。」
「よくやったな。」
微かな灯りが、部屋を覆う香の煙をうっすら照らしている。むせ返りそうな濃厚な煙…。
そう。人間の正気を奪う匂いを伴なう煙だ。
純白のスーツに身を包んだ男。年齢を当てることは出来ない。肉体は若いが、中に宿るものはもっと年経た何かだからだ。また、着ているものがいくら清浄を表す色だとて、その中身のいかに堕落しているかは隠せていなかった。この男は、人間を堕落の檻に閉じ込める、暗黒の鍵だ。
そして…その檻に閉じ込められた人間が、もう一人。
本人も、気づかぬ間に。
「父さんはうれしいよ、茜。」