恋に恋するお年頃!?B-3
「そのことなんだけど、どうしようか迷ってるんだ……。先生には『来てもいい』とは言われてるんだけど、迷惑になったりしないかと思って……。」
「大丈夫じゃない!?休み中なんて学校には来なきゃいけないけど、たいしてやることもないから、暇だと思うし。迷惑がられるどころか、歓迎されるかもよ?」
筒井の砕けた言い方に、不安だらけだった心が軽くなっていくのを感じた。
(もし迷惑だったら、先生も言ってくれるよね?)
筒井のおかげで、恵は夏休み中も佐藤に会いに来ることを決意したのだった。
パタパタパタ………。
廊下を歩くスリッパの音。
「あっ!先生だ。」
他の人が聞けば、同じように聞こえてしまうであろうスリッパの音も、何度も聞いているうちに、うっすらと聞き分けられるようになってしまった。
「じゃあ、私は行くね。……ごゆっくり☆」
筒井が、意味深な視線を送りながら部屋を出て行く。
「あれ!?来てたんだ?」
入れ替わりに佐藤が入ってくる。
「明日から休みだから、とりあえず復習も兼ねて、勉強見てもらおうかと思って。」
鞄から問題集を出し、目の前で振りながらアピールする。
「随分やる気じゃん(笑)」
席につきながら、茶化すように佐藤が言う。
2つのグラスを用意し、麦茶を入れ持ってきてくれた。
進路室に2人でいるときの佐藤は優しい。
自惚れではなく、本当にそう思う。
終業式中の雅美の言葉が蘇る。
『もう告白しちゃってもいいんじゃない?』
告白……。
気持ちを伝えたら、佐藤は受け止めてくれるのだろうか?
気まずくなったりはしないだろうか?
答えの出ない、いつもと同じ自問自答に、恵の頭はいっぱいになる。
「……どうした?ボーっとして。」
佐藤の声に、我に返る。
「えっ!?別に、どうもしないよ!」
まさか『先生のこと考えてました』なんて言えない。
恵は、慌てて問題集を開き、目の前の問題に取り組み始めた。
佐藤は自分の席で、そんな恵の姿を見つめている。
視線は感じるものの、ドキドキしてしまって顔をあげることができない。
重い空気が2人を包むが、恵はどうすることもできず、黙々と問題を解くことに集中するのだった。
その夜、恵はベッドの中でため息をつきつつ、進路室でのやり取りを思い返していた。
(先生は私の気持ちに、気が付いているのかな?)
いくら鈍感だと言っても、毎日のように進路室に通い続けているのだから、好意を持っていることはわかるだろう。
その上で、恵に対し優しくしてくれているのであれば、これは"脈あり"ということではないのか?
最近は物語を楽しむわけではなく、恋のバイブルとして活用している恋愛小説を開く。
でも……。
それなら、今日のあの重たい沈黙は何だったのだろうか?
わからないところを質問すれば、いつものように答えてはくれたけど、あの沈黙には、体が押しつぶされてしまうのではないかと思った。
明日から夏休みだというのに、恵の心にはモヤモヤとした暗雲がかかっているのだった。
「恵ー!!いくら休みだからっていつまで寝てるの!?」
キッチンから響く母の声で、恵は目を覚ました。