飃の啼く…第5章-1
「ただいまー…」
私は落ち込んでいた。部活の最中に急に気分が悪くなったので、保健室へ行った。先生がいなかったので、しばらく休むつもりで横になったのだが、なんと9時まで眠りこけてしまったのだ。
「聞いてよー、飃ぃ…今日さぁ……どうかしたの?」
飃は機嫌が悪いと、耳を後ろに寝かす。もう真っ暗なのに、部屋の明かりはついていない。この部屋で明るいのは、お笑い番組を放送中のテレビだけだ。重々しい空気と相反して、奇妙な滑稽さがあった。その時、闇の中に二つの金色が煌き、飃が目をあけたのが解った。
「さくら。今までどこにいた?」
私はむっとして答えた。
「何よ、その聞き方…保健室よ。ちょっと横になってたら、眠っちゃって。でも誰も起こしてくれないなんて不親切よね…」
「…確かにおかしいな。」
飃は、リビングのいすで、腕を組んだまま微動だにしない。
「何?…どうかしたの?」
「お前、嘘をつくのはうまくても、俺の鼻はごまかせんぞ。」
「え?なに、嘘なんかついて…」
飃は立ち上がり、猛然とこちらに向かってくる。両手に持っていたスーパーの買い物袋が床に落ちた。私の手は飃につかまれたまま、体ごとドアに押し付けられている。
「や…ちょっと…!」
「お前の体から、知らない男の精の匂いがする。」
「…え?」
「お前は、俺に隠れて、他の男と逢引していたんだろう!」
心外だ。そもそもなぜ飃がこんなことをいうのか解らない。沖縄のことをまだ根に持ってるの?私、飃に何かした?
「そんな、ねぇ、落ち着いてよ…私、何がなんだか…」
狂気じみた飃の雰囲気に、恐怖しそうになる。
「己がわからせてやる!夫を裏切るとどんな罰を受けるか!」
「ちょ、まっ…!私の話も聞いて…痛っ!」
飃が私の耳を激しく噛んだ。人間のそれより鋭い犬歯が、食い込む。本当に痛い。
「飃、やめて…っ」
「己以外の男に、触らせたのか?お前の身体を!」
飃は片手で私の両手をつかんで、上に上げさせたまま、胸を乱暴に揉みしだいた。こんな風にされたことは、一度だって無い。
「止めて、飃、止めてよ!」
混乱して、それしかいえない。
飃が私の秘部に手を伸ばして下着を引き裂いた。