飃の啼く…第5章-6
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「なぁ、兄ちゃん飲み過ぎだぜ…」
カジマヤは、目の前でただひたすら、注いでは飲み、注いでは飲みを繰り返す飃の姿に危機感すら覚えた。自分はまだ子供だからよく解らないが、こう言う飲み方は絶対に良くない。
「………」
飃が血走った目で「だまれ」と言ってきた。
まずい。こうなった飃を止められそうなのはさくらだけだけど、なにしろ、原因がさくらにあるんだからしょうがない。
「おれは絶対兄ちゃんの勘違いだと思うけどな。」
ここは、さくらが住んでる町にあって、さくらが一度も足を運ばないであろう界隈に存在する、ある酒場だった。
最近、カジマヤは、わざわざ沖縄からよく遊びに来るようになった。
「飃兄さん、そういうのみ方は良くないと思いますけどねぇ・・・」
店主の颪(おろし)が釘を刺した。彼もまた、このあたりで暮らしている狗族の一人で、妖怪や狗族相手にバーを営んでいる。カジマヤは、自分の持ってきた泡盛がそれこそ泡のように消えていくのを見守った。
「………」
ギロっと睨まれる。間違いなく悪酔いだ。
「…へえへえ。」
颪も退散した。
「ねえ、そこのひと…」
「………あんた、どこの者だ…?」
飃が振り返る前に、颪が聞いた。颪はこの街の狗族を仕切る、とある組織のメンバーでもある。よそ者の匂いは敏感にかぎつけるのだ。
「あたしは西のほうから来た、あんたらのお仲間どす…人間には、お稲荷はんて、呼ばれてるようやけど…」
「今は女と話したい気分じゃない。」
飃がうなった。
「寄るな。」
「ああん、そんなこと言わんといておくれやす…あたい、つい最近ここに逃げてきたばかりで、この辺のお狗さんと知りおうておかんと、不安で仕方が無いんどす…」
確かに美しい狗族だった。さくらの体は健康的で、まだ子供らしさが残る。でも、この女は円熟した大人の香りを持ち合わせていた。
「…ふん、まあいい。座れ。」
その様子を見て、カジマヤは密かに思った。見ーちゃった。後でさくらに告げ口してやろう。と。
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「もう…どこに居んのよ…」
もしかして、飃も変な虫に刺されて誰かに操られているとか…でも、飃がそう簡単に操られるかしら。でも、あの精神状態なら…それとも、他の女を相手にして慰めてるとか?…うーん、でも…でも、でも、逆説の連続。埒が明かないのに。
そんなことを考えている間に、私は駅前の歓楽街へとたどり着いてしまった。色とりどりのネオン。この辺りは夜でも昼のように明るい。
「案外、自棄酒でも飲んでたりして…」
その時…
「もおぉ、飃はん、飲みすぎてはりますえ?」
「!?」
声のした方を向く。
―だれ?あのきれいな女(ひと)…
飃はといえば、足取りこそしっかりとしているものの、雰囲気としてはどこかおぼつかない。そのまま、二人は、私の見ている前で…