飃の啼く…第5章-5
「もしもし、眞上?」
「ああ、なんだ、八条か、お前あれから大丈夫かぁ?」
私は息せき切って話した。
「うん。大丈夫。ところでさ、調べてほしいんだけど、身体になんか虫に刺された痕、ない?」
「ん?あぁ、あるよ。でかいの。あざになっちまってさ…アブか何かかと思ったけど、別にイタくもなんともねえし…」
「そう!ありがと!あ、また今度、元中のみんなで遊びに行こうね!」
電話を切った。
そうだったんだ…
今となっては馴染み深い、あの悪寒が身体を走る。きっと、今までの奴より、手ごわい相手が私たちを狙ってるんだ。
そいつは賢くて、私たちの弱点は何かをよく知っている。
つまり、私たちの間に絆がなければ、私たちの武器は脆(もろ)くて、取るに足らないものになってしまうという点だ。
長い時間掛けて、二人してそれに気づいた。愛を交わした後、語らっている時、戦いの最中に、九重と北斗は強くなっていった。私たちとの心の繋がりもまた然り。そう、言葉にすると陳腐だが、私たちの愛の結晶。それが九重と北斗なのだ。
今、私の九重は、前ほど刃に艶がなくなってしまったし、柄の彫刻も前ほど繊細ではない。この分だと、飃の持っている北斗にも、同じことが起こっているに違いない。
そいつは薬か、虫のようなもの―とにかく針があるもの―を使って、私たちを一定時間操ることが出来るやつ。同じようにして、結城や、眞上や―考えるのもいやだけど、私の制服に射精し(やがっ)た―男子を操ったんだ。
…今度の奴は手ごわい。そして、もっと悪いことに、私たちは二人とも、そいつの術中にいるのだ。
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そいつらは笑っていた。
自分たちが罠にかけた相手が、他愛もない阿呆どもだったからだ。
確かに、女は勘付いたようだ。男のほうはいまだ女を求めて町をさ迷い歩いている。
自分たちはこの二人に勝利するだろう。そうすれば、まちがいなくあの御方にお褒めを頂戴することが出来る。
そいつらは話し合った。
愚鈍なナメクジはあの女に手をつけようとしたけど、あの御方はそれを望まない。
御方は、今やあの娘そのものをご所望だ。そして、それを届けるの自分たちの仕事。
そいつらは笑った。