飃の啼く…第5章-4
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二人が、お互いへの愛ゆえに自分を見失うことがなければ、最初に、さくらの服についていた匂いが、さくらの体ではなく、「服」についていたものだということがわかっただろう。
昼間の電話や服についた匂い、さらに、さくらをあの時間まで学校に拘束したものがなんだったのかも。
冷静になれば明らかになるはずだった。この、重なったいくつもの疑惑は、そうなるべくして仕込まれたものだということが。
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私が家に帰ったとき、飃は家にいなかった。出て行ったのかもしれない。好都合だ。ただいま、の言葉もなしにシャワーを浴びに浴室へ入る。
全て洗い流してしまいたかった。飃がやさしく肌に触れる感触も、耳に残る声も、鼻に残る香りも。そしてもう一度、気の済むまで泣いた。
すると、腕の辺りに、なにやら虫に刺されたような、奇妙な跡がある。赤黒く腫れて、いかにも毒々しい。
「…いつのまに…?」
シャワーから出て、電話を見ると、「伝言メッセージ有り」のランプがついている。再生ボタンを押してみる。
「…ピー…10ガツ・27ニチ・ゴゴ3ジ・23フン。―あの、携帯にも留守電入れたんだけど…」
―あれ?眞上の声だ。しかも、昨日の…丁度学校に居る時間…?
携帯に伝言なんか入ってないけど。
「まだ家にいるのかと思って。俺、ちょっと早くついたから先に部屋とってるね…ホテルのロビーで待ってる…ピー。」
「なによ・・・。これ・・・。」
怒りと混乱に支配される前に、深呼吸をして落ち着かせた。
昨日公園であったときには、本当に久しぶりに会ったって感じだった。こんな電話のことなんか覚えてないような。だって、だってあいつはイタ電なんか(それもこんな趣味の悪い)するやつじゃない。間違い電話でもない。私は留守電で「八条」って名乗ってるし。
その時、私は、沖縄の一件の後で、私に言い寄ってきた結城が友達と話しているのを聞いたのを思い出した。
「お前あの夜どこに居たんだよー。探したんだぞ。」
「いやあ、わりい……まったく記憶がないんだよ…」
「はぁ?だいじょーぶか、お前?」
「ああ…なんか変な感じだよ…」
そういって掻いていた首の辺りに、虫に刺された痕がなかった…?かなり大きくて、あざになっていた。私は、いい気味だと思ったんだけど…
こうなったら全部怪しい。脱ぎ捨てたスカートを調べると…
「あった…!」
確かに、スカートの裏に白いものがついてる。もう固まってしまっているけど…なんて事…これって…
私は急いで電話をかけてみた。