飃の啼く…第5章-3
「こちらは、八条です。ご用件のおありの方は、ピーという発信音の後に・・・」
さくらの声で、電話が答える。これもどういう原理かは知らない。なにかの入れ物の中にさくらの声が入っているんだろうと飃は思っている。
「あの、携帯にも留守電入れたんだけど、まだ家にいるのかと思って。俺、ちょっと早くついたから先に部屋とってるね…ホテルのロビーで待ってるから。」
そこで電話は切れた。
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「えっ…えぅ…ひっく」
私は、近くの公園のブランコに座って、情けなく泣いていた。どうしてこんなことになっちゃたんだろう・・・?
スカートの下はスースーするし、ひりひりするし、耳は痛いし…
「あれー?八条じゃん、どしたの?」
ランニングウェアを着て、通りがかった彼は、中学の時の友達だった、眞上(まがみ)龍弥(りゅうや)だ。
「あ、眞上ぃ…」
ぼんやりと目を上げた。
「わっ。酷いなその顔、どうした、部活か?もしかして、その……大丈夫か?」
眞上が心配そうな顔でこっちを見てる。私は首を振った。
「なんでもないの。ただ、ちょっと…」
「なんかあるなら、言えよ。助けてやるから。」
「うん…さんきゅ…。」
私は、力なく言った。たぶん、眞上がかなう相手じゃないし。頭から真っ二つにされちゃうし。
「ほんとに大丈夫か?俺んち着て、飯でも食ってく?今、うち、親いないから。」
「…へいき。ごめんね心配かけて。たぶん大丈夫だから。」
私は立ち上がって、歩き始めた。自分でもぎこちないのが解る。
スカートの下がスースーする。涙は止まったけど、その分気持ちは虚ろだった。
マンションの階段を登って、家の前のドアまで来た。よし、落ち着いてお互いに話をしなきゃ、始まらない。話を…しなきゃ…。
ドアノブに手をかけて、飃の顔を思い浮かべようとする。でも、さっき起こったこと。そしてあの表情が、頭から離れない。乱暴な行為のせいで、そこがまだ傷む。
私は、夜の街へ戻った。もう少し、もう少しだけ、時間が欲しい。