飃の啼く…第5章-2
「ここを、曝したんだろう、お前の通う学校とやらで!売女のように!」
「飃…!?」
私の懇願は聞き入れられず、まったく準備の整っていないそこに、無情にも、飃のものが押し入ってきた。
「っ痛…!」
あたかもそれが刃で出来ているかのように、叩きつけるような、切り裂くような激しさで、彼は動き続けた。
「やっ…ぁ、痛い、飃、ゃめて…ぇ…っ」
飃は答えてくれなかった。
答える代わりに、さらに激しく突いた。
「んっ…ゃぁ…っ…!」
止めて欲しい。でも、身体はこんなにも異常な状況なのに、確かに受け入れている。
「イヤ…ぁ…!」
痛みが消え…快感の波が取って代わる。
お前は犯されて感じているんだ。
「…っ、……!」
そんな非難が聞こえてくるようで、せめて声だけは出さずにいた。
こんなに乱暴で、こんなに静かに愛を交わしたことなど無かった。いや、「愛を交わす」なんて、到底いえない。こんな行為…。
涙が流れる。あえぎ声なのか、泣き声なのか、食いしばる歯の間から漏れる。
もう…私には抵抗する力すら残っておらず、私の哀願は、囁き程度の泣き声にしかならなかった。
「つむじ…飃……ぉねがぃ…」
泣き腫らした私の目を、血走った彼の目が捉えた。ついさっきまで、世界で一番信頼できははずの夫の目…
すると、飃の手が一瞬緩んだ。その隙に急いでドアを開け、我が家から逃げ出した。呆然と立ち尽くす飃を、そこに残して。
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その影は、さくらが保健室で眠りに落ちる少し前、秋の日の午後の穏やかな時間にやってきた。
さくらが学校へ行っている間は、飃は、この家に張った結界を新しくしたり、さくらが着ていく洋服に、魔除けの術をかけたりするのが日課だ。
その時飃は、日課を終えて、さらに街をぶらつきながら、たまに見つけた澱みを始末したりして、夕方まで過ごした。
午後6時。飃はリビングのソファに座りながら、彼が「照れ日」と呼ぶものを見ていた。仕組みはわからないが、これは確かに便利だ。要は、魔力を持った鏡のようなものなのだろう。そういう鏡を使う者たちの里が、北の方にある。
鏡のなかの見知らぬ女は、今日の天気を告げていた。
その時めずらしく、電話が鳴った。普段さくらが学校に行っている時間には、ほとんど電話はかかってこない。かかってきたとしても、(「同居してるのが学校にでもばれたら!」と、さくらは言う。)飃が応答するわけにはいかないので、もっぱら答えるのは留守番電話の役目だ。