doll W-1
窓から見える空の色は曇り掛かっていて今にも雪の降りそうな様子だった。
部屋の中にいても風の音がやけに目立って聞こえていた。いつも騒がしい二人がほんの少しでも離れるだけでもわずかに淋しさを感じる。
晴れているときには遠くの山の雪景色まで一望できるはずだが今日はあきらめるしかないようだ。
体調を崩してしまったもののまずは無事ここまで辿り着けたことを感謝しなければならないだろう。そんなことをぼんやりと考えながら智花は二人の事を待っていた。
doll W
裕奈と湊の二人が部屋に戻ってくる頃には智花の調子もすっかりよくなっていた。
「おかえり。気持ちよかった?」
布団の上で寝転がる智花の暇を持て余していたような表情を見て、裕奈と湊は安心した。
「うん。とっても。それより智花が本当に元気になってよかった。ねえ?裕奈。」
湊はそう言って裕奈に笑顔を向ける。その顔立ちはすっきりしていて、何か吹っ切れたかのように思われた。
「本当。智花が元気になってよかった。」
その一方で、湊と裕奈の妙に裏がありそうな笑みに智花は一抹の不安を覚えていた。
「なっ何よ。ふたりしてそんなうれしそうな顔をしちゃって。お風呂そんなによかったの?」
智花は身体を起こすと机のうえに置いてあったペットボトルに手を伸ばす。湊たちがお風呂にいく前には半分以上あったお茶も今は残りわずかになっていた。
案外自分たちがお風呂に行ってからしばらくたたないうちに、智花は起きていたのかもしれないと湊は思った。
「ちょっとね。それよりもあたしお腹すいちゃったよ。あたしたちも夕食食べにいこう?」
そう言う湊は見た目どおり子供っぽくて、わがまま言われてもきいてしまうような可愛い顔をしている。彼女のずるいところだ。
「湊は相変わらずご飯が好きなんだ。でも、あたしもお腹すいちゃったし食べに行こうかな。」
髪を乾かし終えた裕奈もそう言うので三人は夕食に向かうことにした。
「わあ、お鍋だ。おいしそう。裕奈の手料理もいいけどたまには外でこうやって食べるのもいいね。」
女子大生三人の小旅行にしては十二分なその料理に智花は舌鼓をうつ。
「智花のそういう顔が見れるならあたしたちも幸せだよ。それだけ食べれるんだから身体のほうはもう平気だよね?」
「二人とも心配しすぎ。もう大丈夫だよ。」
ご飯は本当においしくて、食欲の回復した智花はいつもは小食のくせによく食べていた。温泉だけでなく料理も満足した旅行になりそうだった。
ただ、智花はまだ知らない。裕奈がこの後智花にしようとすることを。今はまだ楽しい時間を過ごすだけ。
夕食から戻りしばらく部屋でくつろいでいた頃にはすっかり夜も更けていた。楽しい時間というものはすぐに過ぎ去っていく事を感じていた。智花は自分の着替えとタオルを用意していた。
「あれ?智花どうしたの?」
湊と並んで横になっている裕奈が顔をあげる。
「あたしもお風呂はいってこようかなって」
初めは裕奈が智花の分も用意していたが、わざとタオルを入れなかったり、卑猥な下着を用意したりしていたおかげで、智花が自分で用意せざるおえなくなったのだ。
「そうそう、言っておくけど今日こそは変な薬飲ませないでね」
智花はこれまで幾度となく裕奈曰く淫乱になる薬なるものを飲ませられてきた。
身体の自由がきかないのをいいことに人前ではとても言えない卑猥なことをさせられてきた。だから彼女がここまで疑り深くなるのも訳あっての事だった。