飃の啼く…第4章-4
「さ…!」
「…わん、なよ!馬鹿やろおっ!!」
それは、飃ですら軽く恐怖するような怒号だった。
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目の前の結城は、驚いて目を丸くしている。
「あたしはねぇ…初めて本州以外の土地に来て、わくわくしながら一人で気持ちよくくつろいでたのよ…それを…メール一本で呼び出して、何かと思えば『一発ヤらせろ』ですって…?」
怒りがどんどんこみ上げてくる。何でこんなに怒ってるんだろう。私。でも、心の中で飃のことを考えていたあの瞬間が、とても大事な時間だったよう思えるのは、気のせいではないと思う。こいつは、私が心の中で大事な何かを見つけるのを邪魔した!
「あたしはねぇ、あんたが思ってるような、安っぽい女じゃないわ、わかった!?」
結城の頭の横にある木の幹に思い切り拳をたたきつけた。
「人の情事を盗み見するようなあんたの変態の友達にも…そう伝えなさいよっっ!!」
最後の言葉は、あわてて退散する男の背中に向かって発せられた。ふん。馬鹿男。
すると、頭上からなにやらくすくす笑い声が聞こえる。うちの学校の生徒…?そう思って見上げると…
「あなた、だれ?」
「すっごいなあ、姉さん!」
それは、小さな飃だった。
いや、間違いだ。飃は、彼の横に座って、やさしげに笑いながら見下ろしている。私は、ばつが悪いのと、飃の登場にびっくりしたのとで、二の句が継げなかった。
飃とその子は、音も立てずに私の前に降り立った。その様子をにらみつけながら、
「…それで、家でお留守番のはずの私の立派なだんな様は、上で楽しく見物してらしたわけね?」
「人聞きの悪いことを言うな。来ないとは一言も言ってないし。あの男のことは今にも殺してやるところだったのだぞ。」
心外な。とでも言いたげな顔だ。殴ってやりたい。
「で、彼は…?」
依然クスクス笑いが収まらない「彼」は、赤茶色の髪がくるくると巻いていて、犬のような耳も、飃のものとは違っていた。
「彼は、カジマヤといって、琉球に暮らす狗族のひとりだ。」
「*;@?;+¥#&!!」
「…は?」
「彼らの言葉だ、気にするな。」
「‘+:*?&%%$#☆!」
何を言ってるのかは解らないが、たぶんいい内容ではないんだろう。飃の顔が引きつっている。