飃の啼く…第4章-2
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ある日の午後、それはおこった。
夏休みは終盤に差し掛かり、スイカがますます甘みを増してきた頃。
「なに!?琉球?」
飃が投げてよこしたスイカ(もちろん一玉)を、空中でき・れ・い・な・8等分にして、そのまま大皿へ盛った私を褒めるでもなく、こっちをみている。
「言ったでしょ、修学旅行なの。もちろん、保護者同伴も配偶者同伴もなし。」
飃は食い下がった。
「では犬は!飼い犬としてなら連れて行っても問題なかろう!」
「……。」
私は、「言うこときかないとと承知しませんよ」という顔をして見せた。
飃はしぶしぶ承知したようだった。その議論はそこで終わった。
解決したわけではなかったが。
九月に入って学校が始まってから、生徒はみんな授業中にもかかわらず上の空だった。
「行方不明」の生物の先生の代わりに新しく入ってきた先生は、生徒たちがこんなにも授業に集中しない理由が飲み込めず、当惑していた。
そして、本州では秋でも、沖縄ではまだまだ「熱い」この季節、園城寺学園の生徒は、沖縄に上陸した。しかし、そこは私立。今年リニューアルしたばかりのシーサイドホテルに宿泊すると聞いても、当然のように受け止める生徒ばかりだった。私を除いては。
私は、本州の外に出たことが無い。ましてや、海なんてテレビで見るだけで実際に足を運んだことも無かったので、ベランダから一面の海が見えたときは、同室の茜に叱られるほどはしゃいだ。
一日目の夕食が済み、自由時間が始まると、みんなそそくさと海岸へ向かった。この学校では「不純異性行為」など生徒のステータスのうちのひとつに過ぎない。茜のお相手は、地元で最古の生け花の何とか流宗家の次男。茜とは幼馴染なんだそうだ。
一人でベランダにもたれて、きれいな夜景を見ながら、ふと、飃のことを思った。そういえば、家を出てくるときはやけに大人しかった。予想に反して笑顔で「行って来い」なんて言われたから、内心拍子抜けしたものだ。とはいえ…。
「一緒に見られたらよかった、かな…。」
遠くの夜景は、海に浮かぶ宝石の島のよう。飃だったら、「ぴかぴかまぶしすぎる。」とか言って、非難するだろうか。でも、それだって、別に悪い気はしない…飃と一緒に…
その時、波のさざめきと私の白昼(?)夢を切り裂いて、携帯の着信音がなった。飃かも!
…違った。同じクラスの結城君だ。
…用事って、何よ。
一階に降りると、ホテルの出口で、結城 祐二が立っていた。別にそれほど親しくないけど。
「どうしたの?」
結城君は頭をがりがり掻いて、ドアの外を指差した。