飃の啼く…第4章-11
ナメクジの周りでは、小さな戦士たちが、必死に切りつけていた。彼らは、体に見合った小さな刀を持っていたが、逆にそれが、何千もの触手を断ち切るのに適していた。けれど、ナメクジの勢いは衰えず、狗族側には負傷者も出ている。何とかして深い傷を負わせようと、腕までナメクジの身体に食い込ませたまま、傷をふさがれ、身動きが取れなくなった戦士もいた。
私は、渾身の力をこめて、叫んだ。
「おい!ナメクジ!!!」
ナメクジは振り向いた。飃がびっくりした顔をしている。
「…この私と、番(つが)うは無い?」
「さくら、何を―!?」
飃の驚きが、怒りに代わった。急いでこっちに来ようとする彼を、カジマヤの手が引き止めた。
―そう、悪いけど、ちょっと我慢していて。
「お前を食う…?」
「ええ、そう。でも交換条件があるわ。」
「……言って、みろ…」
「この村には今後一切手出ししないという条件よ。」
やつは、鈍い頭を必死に回転させている。良いと言え。良いと……
「…げははぁ…いいだろう。お前のような女は、情に流されやすいからいい・・・」
このやり取りを、飃は息を荒くしてみていた。カジマヤは、周りのシーサーたちに、懇親の力で使って押さえつけていたけど、限界に近い。飃の顔からは、人間の風貌が消えかけ、牙をむき出しにして、耳は後ろにぴったりと押さえつけられていた。憤怒の印だ。
「兄ちゃん、悪いのは俺だ。だけど、もうちょっと待って、もうちょっと、あの子が本当に危なくなるまで…」
飃は答えなかった。聞こえているのかも解らない。咽喉の奥から、恐ろしいうなり声が響いている。
遺跡は、しんと静まり返った。
この化け物は、私が奴の手に落ちれば、この村を滅ぼすのを邪魔するものはいなくなるのを知っていてこの条件を飲んだのだ。
「じゃあ、まずそのおっかねえ薙刀を置いてもらおうかぁ…」
「待ってよ。ねえ、あんたは女をいじめるのが好きなんだって聞いたわ。それ以上に―」
私は着ていた制服のボタンを、片手でゆっくり外し始めた。化け物の肩越しに、飃が殺気をみなぎらせているのが解る。ごめんね。
「私たちの『行為』ってやつに興味があるんでしょ?でも、やり方がわからなくて、最初の子は殺しちゃったのね?」
私はなるべく、努めて(本当に努力して)やさしい声音を出すようにした。
「お…ぁあ、そうだ…」
顔がないから解らないけど、たぶんあいつは興奮している。この調子だ。