飃の啼く…第4章-10
「進め、戦士たち。今こそ!!」
それを合図に、シーサーたちも、狙いを定めていた矢を一斉に放つ。私がいとも簡単に触手を断ち切って見やると、放たれた矢は、やつに突き刺さってはいたが…
「ゲハははハ、こぉんな枝っきれ、痛くも痒くもねえわい!」
矢は、奴の身体の中に何の抵抗もなく吸い込まれて行く。
そして、さらに多くの触手を、一気に伸ばしてきた。何人かのシーサーが触手に捕まった。刀を手にしたシーサーたちは、その触手を切りにかかる。
飃も、一番太い触手と格闘しながら、他のシーサーを援護している。私はしつこく伸びてくる触手をなぎ払いながら、少しずつそいつの本体に近づいていった。
一度…二度…何度も、隙を見て切り付けるけど、何のダメージも与えられない。斬ったところが、すぐに塞がってしまうのだ。
「ちっ…こいつの急所はどこに…」
その時、カジマヤが近くにやってきた。怒号と、吼え声、うなり声が、あたりに充満している。
「弱点は、体の中心にある。そいつが現れるのは、やつが女を襲うときだけだ。」カジマヤが、化け物から目を離さずに言う。
「…!?あなた、どうやって知って…」
「俺の姉ちゃんは、あいつに一番最初に食われたんだ。それ以来、この村から女はいなくなった。ほとんど長が避難させた。」
ちらっと私の顔を見る。その瞳によぎるのは、罪悪感か…
「あいつは『女』をいたぶるのが好きなんだ。いや…逆にあいつは俺たちをうらやんでる。自分の子供を生んで、自分の血を残すことに興味があるらしい。だから自分の核を似せたんだ。俺たちの…その…」
言いたい事が解るか、とわたしに視線をよこす。つまり、急所と言うのは…
彼はそこで言葉を切って、新たな触手を切り払った。私からは目をそらしたまま、こう言った。
「長はあんたには言うなって言ってたけど…」
彼がどうしてそれを私に教えてくれたのか、私には解った。使命と義理と、復讐の間で揺れる、彼らの心も。
確かに危険な仕事だ。しかし、方法が一つしかないのなら、ここでそれをせずに、どうやって勝てる?ここで見逃せば、更なる犠牲が出るだけだ。
ようは、あいつは「性交」したいのよ。
方法は…私があいつに食われないで、勝てる方法は……
「わかった。やってみる」
「…ごめん…俺…こんなこと…」
小さな戦士は辛そうだった。まだこんなに若いのに、この村全員と同じ苦しみの記憶を背負っている。
「カジマヤ!」
彼は顔を上げた。
「この戦いが終わったら、琉球語、教えなさいよ!」
そして、笑ってみせた。