ICHIZU…C-3
「お待たせしました!ゴハン食べよ」
健司に加奈、それに修はすでにテーブルに着いていた。加奈が人数分のゴハンと味噌汁をテーブルに並べていく。肉ジャガに牛肉にピーマン、ニンジンを使った味噌炒めが今夜の晩ゴハンだ。
家族揃って“いただきます”の後、佳代が突然立ち上がった。
「ジャ〜ン!ここで重大発表がありま〜す!」
ひときわ大きなを放った佳代は、白い歯を見せて息を弾ませる。
「な〜に?さっきから随分もったいぶって」
「姉ちゃん、早くしろよ!オレ、腹減ってんだけど」
「うるさい!」
思わず修の頭にゲンコツを喰らわせる佳代。修は頭を手でおさえながら“イッテ〜な!何すんだ、バカ姉貴!”と悪態をつく。
「佳代、重大発表って?父さん知りたいなぁ」
健司の言葉に佳代はニッコリ笑うと、少し改まった様子で“それでは発表しま〜す”と言って、
「7月25日からの中体練の試合……選ばれましたー!」
「ウッソでぇ!」
修の言葉を尻目に加奈は訊いた。
「選ばれたって…エエッ!アンタが選手に?」
加奈の驚きの言葉に佳代はハニカミながら、
「と言っても控えだけど…」
「凄いじゃないか!!」
健司は手放しで喜んだ。佳代の野球への情熱と努力を人一倍知っているつもりでいた。それが指導者である監督にも映り、こんなに早く結果として現れるとは。ついぞ思ってもいない事だった。
健司は以前、藤野に言われた事を思い出した。佳代の所属する青葉中学校野球部は県大会出場の常連校で、この地域では強豪に数えられる。当然、“勝つための野球”をモットーにしている。
そうなれば、3年間レギュラーになれない部員も出てくる。仮に佳代がそうなっても“仕方ないと思って諦める覚悟はあるか”と…
だが、それは嬉しい誤算に終わったようだ。
「いつ試合だ!」
健司は興奮気味に訊いた。
「だから25日」
健司はカレンダーを見る。土曜日、ちょうど休みの日だ。
「何試合目なのか分かるのか?」
「まだそこまでは…」
「応援に行くからな!分かり次第、教えてくれ」
健司の言葉に佳代はあからさまにイヤな顔をすると、
「エ〜ッ、見にくるのぉ…」
「当たり前じゃないか!初めて試合に出るかもしれないのに」
そのやりとりを聞いていた修はゴハンの手を休めると呟くように、
「姉ちゃん、エラーしたら恥ずかしいからな…」
「うるさい!!」
途端に佳代の平手が頭にヒットした。健司と加奈はそれを見て笑った。つかの間の団らんが、家族を暖かくしてした。