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君ふたつ、僕色
【純愛 恋愛小説】

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君ふたつ、僕色-scene2--1

 小日向みなみは、僕のことを「雪くん」と呼んだ。正直、僕のことをそう呼ぶ人間は少ない。家族は抜きにして、今思い浮かぶだけでも、親戚のお姉ちゃん達くらいだろうか・・・・・・。それ以外の人間は、大抵僕の苗字を呼んだ。

 僕と、小日向みなみは共に懐かしい廊下を歩き、所々教室を覗いたりした。職員室や校長室はさすがに鍵がかかっていたけれど、それ以外の空き教室などは殆んど施錠はしていなかったため、簡単に入る事ができた。
 全てが、懐かしくて、今の僕達にとっては全てが小さかった。当時は机や椅子がこんなに小さいとは思わなかったのに、今座ってみると面積も、高さも子供向けだ。

 いつの間にか、僕達は何気ない話題でずっと校舎内を歩き回っていた。

 
 屋上への階段の方へ行ってみた。まさか鍵が開いているなんて期待はしていなかったけれど、とりあえず確認だ。
 すると、意外なことに、あっさりと扉のノブが時計回りに回り、扉を引くと少し鈍い音を立てながら開いた。僕は後ろに立っていた小日向みなみの方を振り返り、軽く笑う。すると彼女も、にっこりと首を少し傾けながら微笑んだ。

 扉を開けると、そこには涼しい風。そして見たことのある懐かしい景色。灰色のコンクリートばかりの屋上、視界の半分くらい上からは突然空の青に切り替わる。殺風景でありながら、何とも好きな景色だった。

「懐かしいなあ」

 深く深呼吸をしながら少し大きな声で僕は発声する。

「わぁ、すごい! 私、屋上には初めて上がった」

 小日向みなみも辺りを見渡しながら深く深呼吸をする。

「え? 上がったことないの? よくここで昼休みとか遊んだよ」
「女の子はこんな所で遊ばないよ」

 少し、彼女ははにかみながら言う。言われてみれば、確かにそうだ。僕も、昼休みに遊んだと言っても、男子同士ばかりだったような気がする。

 殺風景な屋上。少し進むとかすかな段差が存在する。僕と、小日向みなみはそこに腰掛けて空を見上げた。
 
 ここにいると、さっきまでの湿気の多いこの国の暑さが嘘のように思えてくる。青空、そして所々に浮かぶ真っ白な雲。風。全てが気持よく感じてしまう。

「雪くんは・・・・・・就職活動?」
「え? なんで?」
「・・・・・・だって、それ、リクルートスーツでしょう?」

 彼女はそう言いながら、僕が傍らに置いていたスーツの上着を指差す。

「あ、うん。まぁね。まだなかなか決まらなくて・・・・・・というか何したいのかもまだ自分自身の中ではっきりしないんだ」
「そっか・・・・・・もうそんな時期だよね」

 小日向みなみは少し視線を上に向けて呟く。

「でもね、雪くん。焦る必要なんてないと思うよ。雪くんの人生はまだまだ長いんだし、これから歩んで行く中できっと、やりたいこと見つかると思うよ」
「うん・・・・・・」

 横顔の彼女を見遣る。
 睫毛がくりんと上を向いていて、すごく長い。少し顔にかかる髪が、太陽の光を浴びて少し茶色に見える。白い肌は、空の青ととても似合う。
 僕の心臓が、ドキンと小さく波打つ。
 こんな気分は、随分久しぶりだ、と心のどこかで思う。


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