君ふたつ、僕色-scene2--2
「小日向さん・・・・・・」
小さな声で呟く。聞こえなかったんじゃないかと思うほど、小さな声で。
しかし、彼女は僕のその声に気付いて僕の方に顔を向ける。
彼女の甘い香りが鼻先を霞める。
ゆっくり目を閉じて、それと同時にやわらかい唇の感触。
キスの味は、彼女の甘い香りと、唇の甘さと混ざり合って、とても甘い。
きっと、唇に触れたのは一瞬の出来事だったと思う。けれど、僕にとってはその瞬間は、とても長くて、でもずっとそうしていたくて・・・・・・。
目を開けると、彼女はとても驚いた表情をしていた。まあ、当たり前と言えば当たり前のリアクションだ。今日偶然出会った男に、突然キスされて。
・・・・・・軽い男だなんて、思われたかな。
「・・・・・・ご、ごめん」
反射的に僕は謝る。彼女は、泣くことも、怒る事もなく、ただ驚きの表情でしばらく僕を眺めていたが、数秒すると、呟く。
「びっくりした」
彼女はそう言って、やわらかく微笑んだ。
* * *
日が少し傾いてきたため、僕達は校舎の外へ出た。夕方だと言っても、まだ昼間の湿気と暑さは健在だ。風は吹いているけれど、屋上に居た時のような爽やかさはない。
僕と小日向みなみは、校門を出る。僕は振り返って少しだけ開いていた鉄の門を、横にスライドさせて端まで閉める。
「今日は、ありがとう」
彼女は微笑みながら僕に言う。どうしてありがとうなんだろう、特別何もしていないのに、と思いながら僕も軽く笑う。したことと言えばキスくらいか・・・・・・。これもよく考えれば迷惑な話ではないか。
でも、それは敢えて言わない。
「こちらこそ、ありがとう。一人で校内歩くより、小日向さんと歩けて楽しかったよ」
「私のほうこそ」
「それじゃあ・・・・・・僕は家、こっちだから」
そう言いながら僕は、右手の方を指差す。
「そうなんだ。逆だね。私は、あっち」
彼女も、僕とは逆方向の左手の方を指差す。そして軽く僕に向かって手を振る。
意外とあっさりとした別れだ。こう言うと変だが、キスした仲なのに、だ。もう、出会うことはないのだろうか。いや、もしまたこの小学校に来てみれば、今日みたいに出会えるのかもしれない。
お互い、軽く手を振りながら、僕達はそれぞれの家へと帰っていった。