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「ドライブ・ドライブ」
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「ドライブ・ドライブ」-1

空に青。雲ひとつ無い。素晴らしくいい天気だ。
道路は休日だというのにいやに空いていて、僕は快調に車を飛ばしていた。緩いカーブが続く。
絶好のドライブ日和、誰がみても。でも僕の気持ちは晴れ晴れとはしない。
助手席には花がいて、只々無言で前方を睨んでいた。膝の上にはMDが散乱し、いくつかは足元に落ちている。ケースの模様はどれもバラバラ、手当たり次第に寄せ集めたみたいだった。
花に気付かれないように溜め息をついて、そのまま大きく欠伸をした。眠い。
まだ日の昇り切らない時間に叩き起こされたのだ。欠伸くらいしたって構わないだろう。
MDの曲が終わった。花が持ってきたMDは、何だかわからないガチャガチャとした歌を奏でる女の声で、いい加減ウンザリしていた僕は心底ホッとした。でも花はすぐにMDを替えてしまった。次の曲も僕の趣味には合わないもので、諦めて窓を少し開けて煙草を吸った。
「寒い」
曲の合間の花の声に顔を向けると、こちらを睨む瞳が僕の視線に入った。
「窓を開けないでよ」
横柄な態度に僕は反論する。
「煙草の煙が車に篭るのが嫌なんだよ」
「あたしは寒いのよ」
「あのね、これは僕の車なんだよ。買ったばかりなんだから、臭いがつくのが嫌なんだよ。少しは我慢してくれてもいいじゃないか」
「知らないわ、そんな事」
花の一言で会話は終わった。僕は数口しか吸っていない煙草を揉み消し、窓を閉めた。二人して黙り込んで、そのまままた走り続けた。
本当だったら、今の時間僕は暖かいベッドの中でぐっすり眠っているだろう。久しぶりの休みで一日ゆっくりと寝るつもりだったのに。
休息は花の怒鳴り声によって破られた。携帯に出てしまったのが運のつきだった。
「さっさと起きて迎えに来てよ」
電話に出た瞬間に花は叫んだ。
「うん?」目もまだ開けないうちの寝惚けた脳は、状況を理解出来ていない。
「車で、家に、迎えに、来てよ。さっさと起きて」
態々言葉を区切って言ってくれても、僕の状況は変わらない。
「…今日約束してたっけ?」
「してないわよ」
「…」
僕はモゾモゾとベッドの中で丸くなった。
「…今日やっと休みなんだよ。僕の予定では一日中…」
「あなたの予定なんか知らないわ」
花は言い放った。
「車を買ったんでしょ?ピカピカの新車を。車は走る為にあるんでしょう?」
「そりゃそうだけど」
「一時間以内に来て」
そう言うと花は一方的に電話を切った。僕がそれから何度掛け直しても、花は電話に出なかった。
暫く僕は起きなかった。起きれなかったと言ってもいい。でも最終的には諦めて、顔を洗い服を着替えた。花には勝てはしないのだ。
一時間を少し過ぎて、やっと花のアパートに着いた。階段に腰掛けていた花は僕の車を見て『ふうん』という顔をしていた。
「これが新しい車?」
助手席に座るなり花は尋ねた。
「そうだよ」ちょっと自慢気に僕は答える。
「ふうん」花の表情は変わらなかった。別にいいさ、花の為に買った車じゃない。僕自身の為に買ったんだ。
持ってきた大量のMDの一つをカーステレオに突っ込んで、花はそのまま黙りこくっていた。
「で、何処に行きたいの?」
僕が尋ねると花は面倒臭そうに答えた。
「どこでもいいわ」
「どこでも?」
「行き先なんて決めてないわ。場所なんかどこでもいいのよ」
苛々とした横顔を僕に向けて花はシートの位置を直していた。
「ドライブよ」
花の気まぐれはいつもの事だ。僕はそれ以上聞かずに車を走らせた。
もうどれくらい車を走らせただろうか。日は高く昇り、車内に射し込む陽射しが強くなってきた。
何も食べずに家を出た僕は腹が減ってきていて、隣に座る花に尋ねる。
「腹空かない?」
「別に」
「何処か食べるとこで停まってもいい?」
花はこちらに視線を向け、とても嫌そうな顔をした。
「…わかったよ」
ふと思い付いて話し掛ける。
「花、トイレは?」
暫くの沈黙の後で花は答えた。
「…行く」
コンビニを見付けて車を停め、車を降りる。ずっと運転しっぱなしだったせいで腰と目が痛い。
花がトイレに行っている間、めぼしい物を買っておく。会計を済ませて車で待っていると花がやってきた。
歩いて来る姿を見つめながら、やっぱり花は綺麗だと思った。
実際花はとても綺麗で、元々色素が薄いのか、肌は日に焼けたことなんか一度も無いんじゃないかって位に真っ白だった。猫毛の髪は長くて薄い茶色で、歩く度にふわふわと揺れていた。全体的に線が細くて儚げな印象。
あれで性格ももっと素直ならな、と僕は思った。


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