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君ふたつ、僕色
【純愛 恋愛小説】

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君ふたつ、僕色-scene1--2

「あ、僕は怪しい者ではなく・・・・・・その・・・・・・」

 言葉に詰まる。不法侵入してきました、とでも言おうか。怪しくないと言う奴ほど怪しかったりする。現に、土曜日の昼間に、片手にスーツの上着と鞄、ネクタイを首元で少し緩んでいる22歳の男がこんなところに居るだけで、十分怪しい。

 すると、僕が言葉を発しようとする前に、目の前の彼女が口を開く。

「少し、懐かしくって。開いてたから・・・・・・勝手に入っちゃいました」

 彼女が無邪気に笑う。笑うと、両の頬に、えくぼができるようだ。つられて僕も笑う。

「同じです、僕も・・・・・・何気なく入ってみたら窓が開いていたから。いくつなんですか?」

 不躾な質問だ、と再び言ってから気付く。女性に年齢を聞くなんて、なんて礼儀の無い・・・・・・。

「22歳です。久しぶりにこちらの実家に帰ってきたんです」

 意外にもあっさりと彼女は答える。
 22歳...・・・という事は僕と同い年ということか。
 こんな女の子、同い年に居ただろうか?

「あぁ、同い年ですね。僕も22歳なんですよ。僕はこっちに住んでますけど・・・・・・えっと、失礼ですがお名前は?」

 思い出せなかった。結構僕は、同学年の人間を記憶している方だと自負していたけれど、目の前の彼女の顔に見覚えが無かった。それとも、年月が経って成長して顔つきが少し変わったせいだろうか?

「小日向みなみ、です。多分・・・・・・ご存知ないと思いますけど」
「小日向みなみ・・・・・・さん」

 僕は、彼女の名前を繰り返す。確かに聞いた事のない名前だった。

「えぇ、私3ヶ月ほどしかこの小学校に通っていなかったから・・・・・・」
「転校されたんですか?」
「えぇ、そんな感じ」

 彼女は視線を少し上にやって、考えるような仕草で軽く微笑む。
 その様子が、すごく綺麗で、真っ白で、思わず僕は見とれてしまった。

「あなた、名前は?」

 ぼんやりとしている僕に、不意に彼女が尋ねる。どこかに飛んでいた思考を、慌てて、この教室に戻す。

「宮橋雪・・・・・・」
「まぁ、冬生まれ?」
「え、あ、まぁ・・・・・・そうです。12月生まれです」

 驚いた。僕の名前を聞いて、「冬生まれ?」だなんて尋ねてくる人間が居たなんて。大抵、この名前を言うと、「雪(ゆき)」なんて名前、女みたいだって言う人間が殆んどだ。

 そこで、沈黙。
 彼女も、僕も話すことがなくなって黙り込んでしまう。彼女は、教室を見渡して楽しんでいるようだ。しかし、僕はこういう沈黙は苦手だった。いつも何か話して、沈黙にならないようにしていた。

 ぼんやりと彼女を眺める。しかし、頭の中は何か話題を、とフル回転していた。僕の頭の中だけが、もの凄いスピードで回転している。それ以外は、僕自身も、彼女も、そしてこの教室内もゆったりと時を刻んでいる。

 教室の出口付近で立ち止まり、真っ白でふわふわとした小日向みなみが、不意に僕の方に振り返る。そしてにっこりと微笑んで言う。

「折角だから、校舎内も歩きません? ちょっとだけなら大丈夫だと思う」

 何か面白い事を発見した小学生のような悪戯な表情を浮かべて、彼女は楽しそうに提案する。
 僕は、それに軽く頷き、彼女の方へと歩み寄った。


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