桜幻影-4
静かに口付けを交わす。美香の冷たい唇。
服を脱がせると、肩の下に点滴のチューブが防水用テープで小さく固定されていた。お腹には、痛み止めのシールが貼ってある。
肋骨は浮き出ているのに、お腹は膨れあがって、カエルのようになっていた。
「痩せちゃって、気持ち悪いでしょ。」
美香が笑いながら言った。「そんな事ないよ。」
僕は涙を堪えながら答えた。
美香の乳房にそっと舌を這わせた。乳首が硬くなっていく。指で乳輪をなぞり、乳首を弾いた。
「あぁん、気持ちいい。」
そんな反応が、嬉しかった。
指で割れ目の周りを撫でる。指を入れるとわずかな湿り気。
僕は美香の割れ目を舌で舐めあげた。唾液を塗り付けるように、舌をねじ込む。わざと大きな音が出るように、ピチャッ、ピチャッっと舌を出し入れした。
唾液によって充分に濡れた美香の中に、僕はゆっくり入った。
美香に体重がかからないように、お腹が圧迫されないように、浅く挿入を繰り返した。
なるべく長く、美香の体温を感じていたい。
そう思えば思うほど、僕の中で射精感が高まってしまう。
自然と早くなる腰の動きに気付いたのか、
「な…中に…出して。」
美香が言った。
「ダメだよ。妊娠しちゃうよ。」
僕が返すと、
「お願い…お願いだから…もう最期だから…」
美香は泣いていた。
最期。
最期ってなんだよ。
美香の頬に、僕の涙が落ちる。
それでも僕は腰の動きを止めない。そろそろ限界が近づく。
迷って、僕は…
美香の中に射精をした。
病院に戻ったその後の美香には、苦痛しかなかった。
全身が痛くて常に唸っていた。そのたび、痛み止めの点滴の速度が早くなる。痛み止めが入ると眠りにつく。また痛くなって、身の置き所がなく苦しみだす。痛み止めの量が増える。その繰り返しだった。僕に笑いかけてくれることもなくなった。
夜中、僕の携帯が鳴ったのは、美香が外泊をした3週間後のことだった。
病室に駆けつけると、すでに美香の両親と、見たことのない美香の弟がいた。
部屋の心電図モニターは、ずっと警告音が鳴っていた。美香の意識はもうない。苦しそうに呼吸しているだけだった。
僕が到着して間もなく、心拍数が徐々に低下した。
美香の心臓が止まる…。
最期に、もう一度心拍数が上昇したかと思うと、
その基線は、一本の線になった。
美香の遺体を乗せた車は、美香の自宅へと帰っていった。
「戸田くんも後で美香に会いに来て。」
美香の母親に言われたが、僕はすぐには会いに行けそうになかった。
その足で向かった先は、美香と初めて結ばれた、あの公園だった。
誰もいない夜の公園。空気は冷たく、澄んでいた。
あのベンチに座る。
見上げれば、満天の星と、満開に咲き誇った桜の儚いピンク。
「美香、桜が満開だよ。」
そう呟いても、美香はもういなかった。
花が静かに散り、僕の足元に落ち、僕は独りで嗚咽した。