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桜幻影
【女性向け 官能小説】

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桜幻影-3

年が明けて間もなく、美香から一通のメールが来た。『体調悪いから、病院に行く』
そのメールを読んだ僕は、もしかしたら、美香は妊娠したのではないかと思った。
覚悟は出来ていた。もしそうなら、結婚する。
プロポーズの言葉を考えた。
美香との未来を思い描く。
夕方、美香からまたメールが来た。『検査の予約をしてきた。』
以外なメールの内容だった。

その日以来、美香は何度か近所の総合病院に通院していた。

久々に美香が僕のマンションに来たのは1月の終わり頃の事だった。
話がある、といってきた美香は前にもまして顔色が悪く、少し痩せていた。そのわりに、お腹は膨らんでいた。
やっぱり妊娠したのか。
そう思った僕は…馬鹿だった。

テーブルを挟んで向かい側に座った美香は、意を決したように話し始めた。
「この前、病院で胃カメラの検査をしたの。今日その結果を聞きに行ってきたんだけどね…。両親と聞きに来て下さいって言われたから、なんとなく変だなって思ったんだよね。」
僕は嫌な予感がした。心臓の音が早くなるのがわかる。
「そしたらね、」
美香が涙ぐみ、絞り出すような声で告げた。
「胃ガンだって。」

しばらくの沈黙が流れ、聞こえるのは僕の心臓の音と、美香のすすり泣く声。
気が付けば、僕は美香を抱きしめていた。美香の存在を確かめたかった。

美香は仕事を辞めた。それが身辺整理みたいで、僕は嫌だった。
美香は、しばらく自宅で療養していた。僕は医学雑誌を読みあさり、手術や抗がん剤治療を勧めたが美香は拒否した。身体を傷つけたくないのだと言った。
なんとかして美香が1日でも長く生きる方法を模索していた僕とは対照的に、美香は何かを覚悟しているようにみえた。

間もなく食事がとれなくなった美香は、緩和ケア病棟のある病院に入院した。僕のマンションから、車で一時間近くかかるが、頻繁に面会に行った。
病室のベッドの上で、いつも笑顔で迎えてくれる美香。
それに答えるように、作り笑いをする僕。

美香の病状は、日を追うごとに悪くなっていった。

その頃美香は、家に帰りたいと繰り返し言うようになった。しかし衰弱がひどくなっていて、退院できる状態ではなかった。
医者と話し合いの結果、なんとか一泊だけの外泊が認められた。

美香の外泊の日、僕は仕事を休んだ。
一旦実家に戻った美香を、夜迎えに行く。僕のマンションで一晩過ごすためだ。
それが美香の願いだった。
美香の母親に見送られながら、僕のマンションへと向かう。
車中、美香はずっと窓の外を眺めていた。
「桜…まだ蕾だね。」
車から見える桜並木を見ながら、美香が呟いた。
「今年も桜が見たい…」

マンションに着き、部屋に入ると、美香は疲れたのかすぐにベッドに潜り込んだ。僕はベッドに腰掛けた。しばらく美香の髪を撫でながら、真っ白い顔をした美香を見ていた。
美香がニッコリ笑いながら、
「ねぇ…エッチしようよ。」
と言った。
突然の美香の誘いに、僕は戸惑った。そんな僕の考えがわかったのか、
「大丈夫だから。」
と、僕の手を握った。


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