僕らの日々は。 〜一か八か。〜-1
篠宮 一葉(しのみや いつは)は、不思議な人だ。
今、僕は夕暮れの道を彼女と並んで歩いている。
別にデートとかじゃない。ただ単に家が近いので学校から帰る道が一緒、というだけである。この習慣は小学校の頃からずっと変わらず続いている。
と、さっきから何か考え込んでいた一葉がやっと口を開いた。
「…カラス」
「………カラス?」
一葉の会話はいつもこんな感じで、前フリ無しで唐突に始まる。
「そ、カラス。…最近さ、カラスが生ゴミを漁って困ってるって母さんが言ってたの」
「あぁ、そういやうちの親もそんなこと言ってたな…」
聞いた話によると近頃何やらカラスが急激に増えて、市全体の問題になっているとかいないとか。
「だからね、地域に貢献する為にカラスを減らす方法は何かないか考えてたの」
「地域貢献ねぇ…」
「でもただ減らしたんじゃつまらないでしょ?」
「…そう?」
「そうよ。やるからにはこっちにも何か利益が無いとね。…というわけで妙案が浮かんだの」
「へぇ。何さ?」
「カラスって食べれないのかしら?」
「…………………」
……さて。
何と返事をしたものか。
「…なんでまた食べる方針に?」
「だってさ、もし美味しかったら食料にもなりゴミ漁りも減って一石二鳥じゃない?」
「いやぁ、さすがにカラスは食べれないんじゃないかな…」
「グロいものは食べたら意外と美味しかったりするのよ。ほら、タコとかウナギとか」
「いや、まぁ確かにそうだけど…」
得意気に説明する一葉。
今までの経験上、もうこの後の展開は決まっている。
「というわけで春風。カラス食べ…」
「断る」
即答。
ちなみに春風っていうのは僕の名前だ。
苗字まで入れると、
沖田 春風(おきた はるかぜ)。
…まぁ、それはいいとして。
「むぅ。まだ最後まで言ってないじゃん」
「とにかく僕は食べません。っていうかまず自分で食べてみればいいじゃないか」
「嫌よ。あんな黒くてグロい鳥食べて、お腹壊したら最悪じゃない」
「そこまで言うか…」
……というか僕なら腹壊してもいいのか?
「春風なら大丈夫よ、きっと。道に落ちてる生肉なんかも平気で食べてそうだし」
「……君の中で僕は一体どんな生き物として認識されてるんだ…?」
「えー、無理なの?」
「無理だろ」
「しょうがないわねぇ。いい方法だと思ったんだけどな」
僕は溜め息をついて隣の一葉を見た。彼女は僕より少し背が低いので、見下ろす形となる。
その一葉はというと、肩より少し長めの黒髪を揺らしながら、また何やら考え始めたようだ。