『傾城のごとく』-4
母は父のカバンや上着を取りながら、
「先にお風呂にします?」
「いや、食事にしてくれ。腹ぺこなんだ」
「じゃあ、私、お風呂入ってこよう」
小春はそう言ってリビングから出て行った。対面で食事する父に、千秋は思い切って訊いてみた。
「ねぇ、お父さん。ウチ、今までペット飼った事なかったよね。なんで?」
父は箸を休めて、
「お前達が生まれてから、この家に住むまでずっとアパートだったろ。ペットは飼えなかったんだよ」
「ああ…そっか…」
「千秋はペットが欲しいのか?」
「う、うん。そんなんじゃないよ。友達ン家で猫飼ってたから。それで…」
「そうか」
父との会話を聞いていた母が、
「ホラッ千秋。もう遅いから自分の部屋へ行きなさい」
「うん。おやすみ」
そう言うと千秋はキッチンを後にする。父は千秋が見えなくなると、
「何かあったのか?ペットの話なんか…」
「さあ、帰るなりずっと塞ぎ込んでんのよ」
「ふーん」
父はそう言うと箸を進めだした。
千秋はベッドに横たわり天井を見つめる。
(今日は言えなかったなぁ…明日こそ言わなきゃ。……!そう言えば、猫飼うのっていくら位掛るんだろう)
千秋はベッドから起き上がると、貯金を調べてみる。
(足りるかしら?明日、本屋で調べてみよう)
再びベッドに戻り天井を眺めながら、
(明日から病院のお手伝いかぁー。頑張って世話しよう。それから名前は……)
千秋はなかなか寝付けず、ようやく眠りに就いたのは日付が替わった頃だった。
空は満天の星が輝いていた。