『傾城のごとく』-3
「あら、遅かったわねぇ。先に食べてるわよ」
(これだ。母はまったくののんびり屋で、私が遅く帰って来ても気にもしない)
「あんたがこんな時間まで帰ってこないなんて珍しいじゃない。さては、男でも出来たかな?」
姉の小春がニヤニヤ笑いながら千秋に声をかける。
「うるさいなあー、友達ン家で雨やどりしてたんだよ!」
小春は嬉しそうに、
「やっぱり!あんた、ガサツっぽいから寄ってこないのよ」
「なにーっ!自分だって高校生のくせに彼氏いないじゃん!」
その時、母が割って入った。
「ほーらっ、食事なさい。それに千秋は中2なのよ、まだ早いわよ」
「お母さん。私、後で食べる。雨で制服濡れちゃったから、お風呂に入るね」
千秋はそう言って部屋へ向かった。それを見た小春は驚きの顔で、
「ちょっと、お母さん!あのコが食べないなんて、初めてじゃない」
「何言ってるのよ。病気の時ぐらい……ホント!初めてだわ」
「ねぇ、ホントに男でもいるんじゃない?」
「まさか」
湯船の中で千秋は考え込んでいた。
(猫飼うの許してくれるかなぁ。今までペットなんて飼った事ないからなぁ)
遅い夕食を摂ってる最中も、千秋は塞ぎ込んでいた。母と小春はテレビを見ていたが、小春は千秋の方を向いて、
「何、塞ぎ込んでんの?あんたホントに男でも出来たんじゃない」
千秋は我にかえると、
「や〜だ。そんなんじゃないよ」
そう言いながら、なおも塞ぎ込んでいた。
「ただいま!」
玄関からキッチンに向かう父を母と小春がリビングから出て迎える。と、父はキッチンにいる千秋を見つけると、
「なんだ千秋。やけに遅い夕食だな」
「このコねぇ、彼氏と一緒だから遅く帰って来たんだよ!」
すかさず茶々を入れる小春。
「姉ちゃん!いい加減にしないと怒るよ」
父はニッコリ笑いながら千秋の頭に手を撫でる。
「そうか、千秋もそんな歳になったか」
そして小春の方を見ながら、
「小春。おまえも頑張らないと千秋に先を越されるぞ」
小春は父を睨み頬を膨らませると“フンッ”と言ってテレビの方に向きなおった。母と千秋はその仕草に笑ってしまった。