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『傾城のごとく』
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『傾城のごとく』-2

「どうしました?」

彼は温和な優しい声で千秋に訊く。

「このコ、病気みたいなんです。目ヤニや鼻水がひどくて…」

獣医は仔猫を診察台に乗せるよう促すと、千秋は“センセェ、お願いします”と言って仔猫をそっと置いた。

獣医はひととおりの診察の後、

「風邪だね。それに軽い栄養失調…」

「治るんですか!」

「もちろん。暖かくして薬と食事を与えれば…」

千秋の顔から先ほどまで見せていた悲壮感が抜け、笑顔が浮かぶ。

「よかった…」

しかし、温和な感じの獣医は怪訝な表情を見せると、

「このコを飼うつもりかい?」


「それは…あの…その…」

返答に困る千秋。それを見た獣医は固い表情で、

「このコを救いたいと連れてくるのは構わないけど、飼わないのなら結局このコは遅かれ早かれ殺処分されるよ…」

獣医の言葉が千秋の胸に突き刺さる。彼女にも、それは十分に分かっていた。だが、あの目が合った瞬間から“助けたい”という気持ちは変わらなかった。

「私、このコ飼うんです!さっき目が合って、運命を感じたの!」

(何言ってんの!家族にも相談してないのに……)

獣医は千秋の目をしばし見据えた後、改まった口調で、

「よし!分かりました。このコは三日間の入院が必要です」

そしてニッコリと微笑むと、

「その間に元気にしてあげるから、その後に取りにおいで」

獣医の声は温和な優しいそれに戻っていた。が、今度は千秋が曇った顔をする。

「センセェ、私そんなにお金持ってません…どうしたら良いの?」

獣医は少し考えると、

「そうだな…じゃあこうしよう。君は明日から3日間、1日2時間、このコの面倒をみるんだ。君がこのコを元気にするんだ。いいね?」

「はいっ!」

間髪入れず千秋は答えた。その後、彼女は獣医に何度も礼を言いながら病院の門を出た。いつの間にか雨は上がり、水溜りに月が映っていた。

千秋は駆けながら帰路についた。必要も無いのだが、気持ちがそうさせていた。



帰宅すると夕食のまっ最中だった。


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