No32 ペットボトル1-5
「つまらないな…」
心境がそのまま思わず口から出てしまった。
「まぁ、ここまではね」
そんな事など一辺も気にしない、そいつは相変わらずの態度で続けた。
そうなのだ、こいつはオレの想像の二段斜め上、そこでさらに一回転半ひねった事を言ってくるようなやつなのだ。
こんな誰でも予想できるような妄想をわざわざ言うやつではない。少し頭を冷やそう、むざむざとこいつのペースに乗せられている。深呼吸だ、落ち着け。スー、ハー。
ポンポンポン。
オレが丁度息を吐ききった時、何処からともなくゴムボールが転がって来た。
勢いを無くしたそれはオレの足にポコッと力無く当たり、そいつの足元で止まった。
「あそこの野球少年たちのかな?」
そう言うと、そいつはボールを拾い上げた。見ると十五メートルほど先から、外野を守っていたであろう少年が小走りにかけて来ていた。
オレ達と目が合うと少年は止まり、グローブのまま大手を振って、
「すいませーん!投げて下さーい!」
と元気な声で叫んだ。
「だってさ」
オレはそいつの方を見ると、野球少年の方をアゴでしゃくった。
「投げてやれ」という意味で。
「うん」
ヒョイと軽く、野球少年の方にゴムボールを放った。
ボールはワンバウンドして野球少年のグローブに収まった。
「ありがとうございまーす!」
少年は軽く一礼するとまた元気に野球の輪に戻って行った。
この暑さの中、その元気が少し羨ましかった。
少年が戻ったのを見届けたオレは、
「あ」
思わず呟いた。
「何?」
そいつが聞いた。
「話してた事が、今ので吹っ飛んだ…」
フッと鼻で笑われたような気がした。
「まだ話しはこれからなのに…思い出せる?」
えぇと…ペットボトルが世界で3つが地獄と普通と…うむ、何とか思い出せそうだ。
「少し時間くれればなんとか」
「そ」
そいつはまた肘をテーブルにつき、再開したばかりの野球を再び眺め始めた。