No32 ペットボトル1-4
「…テーブルの上に置かれてる」
「違う、言ったろ?ペットボトルの中は一つの世界なんだ、外からの干渉じゃなくてペットボトルの中はどうなってる?」
「…雫が内側に散乱してる」
「うん、それも一つ」
そいつは軽く満足気に頷いた。
だが、言って欲しい事はまだ他にもあるようで、再び静かな微笑をたたえた視線をオレに向けた。
「底にジュースが溜まってる…」
当たり前の事なのだか。
「そ、百点」
その当たり前が当たりだったようで、そいつは何やら再び解説を始めた。
「さっきのペットボトルの世界の話しは覚えてるね?」
幾ら何でもさっきしたばかりの話は忘れない。
「地獄と普通と天国か?」
そいつは再び軽く頷く。
「そ、じゃあそれを踏まえたら、ペットボトルは今どうなってる?」
再び実況開始。
妄想付きの。
「…地獄にジュースが溜まってる」
「当たり」
…これだけシュールな会話も珍しい。
オレはあからさまに呆れた表情を作った。
だがそいつは大真面目だったようで、オレの態度など気にせず続けた。
「ハイ、本番は此処から」
今までのは前座か、はたまた複線張りか。
そいつは少し口調を変えた。
とにかく、確信に触れるのは今かららしい。
「じゃあ、このジュースを、その世界の中で生活する人々と考えたらどうなる?」
面白い物を見たような口調で言った。
これもいつもの事。
「えー…底が地獄でそこにジュースが溜まっててそれが人々だから…ほとんどの人が地獄で暮らしてる事になるな」
何やら物騒な事を言っているようだが、別にそうでも無い。
これは妄想なのだ。
「そう、見た通りだね。でもよく見てよ、天国にも普通の世界にも人は残っている」
そいつはペットボトルの上部から中部にかけて指先クルクルと円を描いた。
「あー…」
なるほど、確かに至る所に水蒸気、または水滴がついていて、上に行く程少なくなっている。
「…となるとこれは普通に、または天国で生活してる人達か?」
「そう」
言いたい事が見えてきた。
用は事実の通り。
地獄で生活してる人が多くて、普通の世界や天国で生活できる人は少ないですよ。
こいつはそんな事が言いたかったのだ。